第383話 聖女帰国(5)
(そして、スプリガンさん・・・・・・・・あの人の綺麗な金の瞳には、なぜか暖かさを感じました)
唐突として出現した正体不明・目的不明の怪人。4日前の月曜日の夜、ファレルナはその人物と出会った。
客観的に見れば、ファレルナはスプリガンに脅された。抵抗する素振り、嘘をつけば、殺すとスプリガンは言い、質問をファレルナに行ってきた。
第3者がファレルナの話を聞いたならば、スプリガンの事を冷酷な卑怯者と言うかもしれない。しかし、ファレルナはそうは思わなかった。
(確かに、あの人は一見すると冷酷な態度でした。言葉には冷たさと本気を感じた。ですが、あの人は約束を守ってくれた。それに・・・・・あの人は笑った。あの笑みに冷たさは感じなかった)
ファレルナはスプリガンの事を敵とは思っていなかった。スプリガンと会った今でも、そう思っている。確証はなにもない。強いて言うなら、ファレルナの勘がスプリガンは敵ではないと言っているだけだ。
(・・・・・・・・・・不思議です。私はあなたの金色の瞳を、どうしても忘れられない)
あの金色の瞳。本人の纏っている衣装と相まって、ファレルナはスプリガンの事を「夜の闇のような人物」だと思った。黒色の衣は闇、金色の瞳は月だ。夜の闇には月が伴うものだから。それにファレルナが感じた優しさ。夜の闇は人々に安らぎを与えてくれる。その安らぎのような優しさを、ファレルナはスプリガンに感じた。
空港につくまでファレルナは、あの金色の瞳の怪人の事ばかりを考えていた。
「あ、明夜! 聖女様来たよ!」
「ぐっ、ちょ、ちょっと待って。人がギュウギュウ過ぎて・・・・・・よし、何とかポジどり成功。あ、本当ね」
とある空港内。多すぎる人混みの中、ファレルナの見送りにやって来た陽華と明夜は、何とか最前列にポジションを取ることに成功した。これでファレルナに気がついてもらえる可能性が多いに高まった。
陽華が指摘した通り、ファレルナ本人は空港の入り口に姿を現した。ファレルナの直線上は綺麗に空いていて、その左右に押しかけたファレルナのファンやテレビ局のカメラなどがいる。ファレルナが日本にやって来た時と同じ形だ。
周囲を警護に固められたファレルナは、カメラやファンの人々ににこやかに手を振りながら、歩を進めて行く。
「聖女様ー! 色々とありがとうございましたー! また日本に来てくださいねー!」
「お達者でー! マジでサインありがとうございましたー! 家宝にしてます! また来てくださいねー!」
空港内は喧騒に包まれていたので、2人は声を張り上げてそう言った。ついでに、手をこれほどかというほどに振る。
「あ、お2人とも。見送りに来てくださったんですね! ありがとうございます」
陽華と明夜の前を通りがかったファレルナが、パタパタと軽く手を振った。ファレルナはその立場上立ち止まれなかったので、短い言葉とその仕草だけになってしまったが、2人からしてみればそれで十分過ぎるくらいだった。




