第382話 聖女帰国(4)
「・・・・・・影人」
「え・・・・・・・・?」
「・・・・・確か帰城影人という名前だったと思います。私が彼に色々と聞いていた時に、名を尋ねましたので」
疑問の声を上げたファレルナに、ファレルナの左横についていたジーノがその名前を教えた。
「影人・・・・・帰城影人さん。それが、あのお兄さんの名前・・・・・・・・・」
自分を助けてくれた少年の、影人の名前を知ったファレルナがその言葉を反芻する。まるで、決してその名を忘れないように。
そしてそんな間に、エレベーターが1階のロビーへとたどり着いた。ホテルの従業員たちがファレルナを待っていたかのように頭を下げる。SPたちに周囲を警護されているファレルナは、その従業員たちに軽く頭を下げながら、ホテルの目の前に停まっている車に乗った。アンナはファレルナと一緒の車に、SPたちはその前後に停まっている車に乗る。
「・・・・・・・アンナさん、また日本に来る事もあるでしょうか?」
「・・・・・・・・私はただの修道女です。ですから、聖女様がまた日本を訪問するかどうかは知りませんし、分かりません。それをお決めになるのは、教皇様ですから。・・・・・・・・・・ですが、今回の日本への訪問は大成功だったと思います。ファレルナ様のおかげで、神の教えに関心を持った人々も少なくはないでしょうから。だから、その・・・・・・また日本を訪れる機会もあるのではないかと私は思います」
ところどころ言葉を選ぶように、探すようにアンナは隣に座るファレルナに言葉を述べた。アンナ個人の意見をファレルナに述べるのは、恐れ多いとは思ったが、ここは自分の意見を言った方がいいのではないか、となぜか思ったのだ。
「やっぱり、アンナさんは優しいです。ありがとうございます、アンナさん。アンナさんがいてくれたから、私は日本で楽しく過ごせました」
「っ!? も、もったいないお言葉です・・・・・・」
その言葉を聞き、ファレルナの笑顔を見たアンナは、自分の感情をコントロールし切れず、思わず顔を背けてしまった。
そんなアンナを微笑ましく思いながら、ファレルナは窓の外に視線を移す。窓の外に映る景色は、高層の建物やこの国特有の民家などだ。自分の国とは違う、外国の景色。
(お兄さんに、朝宮さんに月下さん。風音さんにアイティレさん。それにその他多くの日本の皆さん。思えば、色々な人たちと触れ合えた1週間でした)
それぞれの人々の顔を思い出しながら、ファレルナは思いを馳せた。いずれの人々も自分に素敵な異国での思い出をくれた。しかし、ファレルナには忘れられない人物があと1人だけいる。




