第381話 聖女帰国(3)
「ま、そこはラッキーを期待しましょ。それより、あと5分くらいしたら出るから、ちょっと急いでね」
「分かってるよ。あと二口で終わりだし大丈夫」
陽華が残り少しとなっていたナポリタンを美味しそうに平らげた。水で喉を潤し、ペーパーで口を拭う。
「ぷはー、ごちそうさまでした! めちゃ美味かったです、しえらさん!」
「・・・・・うん、よかった。また来て」
美味しい物を食べた陽華は、いつもより2割り増し輝いた笑顔でしえらに礼を述べた。しえらはいつもの様に、少しだけ口角を上げた。
「それじゃ行くわよ陽華。ごちそうさまでした、しえらさん」
「ごちそうさまでしたー!」
2人はそれぞれ自分の注文した物の代金を支払うと、喫茶店「しえら」を後にした。
「聖女様、そろそろお時間です。これから空港へと向かいます」
「分かりましたアンナさん。では、行きましょうか」
アンナの言葉に、ファレルナは笑みを浮かべて豪華な装飾のされているイスから立ち上がった。ここは、日本政府からファレルナに割り当てられた最高級クラスのホテル。そのスイートルームの一室だ。
「荷物は全て車の方に運んでいますので、どうぞそのままで。では、車までご案内します」
アンナが部屋のドアを開ける。念のため素早く周囲を見渡し、何か危険がないかを探したが問題なさそうである。
「・・・・・・・・・・」
アンナとファレルナが廊下に出ると、部屋の前で待機していたSPのスキンヘッドの男性、ジーノとその他複数のSP達が素早くファレルナの周囲を固めた。アンナ、ファレルナ、SPの者たちはエレベーターの前まで移動した。
「なんだか日本に滞在していたのは、一瞬だったような気がしますね。きっとそれほどに楽しく、有意義な時間だったのでしょうけれど」
「・・・・・・・そうですね。確かに一瞬だった気がします」
エレベーター内でファレルナが呟いた言葉に、アンナはどう答えていいか分からず、とりあえずそう言葉を返した。どう返しても恐れ多い気がしたからだ。
「・・・・・・出来る事ならば、またあのお兄さんに会いたかったですね。もう1度、しっかりとお礼を言いたかったです」
「それは・・・・・・・難しいですね。我々はあの少年の見た目こそ知っていても、それ以外には名前も何も知らないですから」
ポツリとファレルナの漏らしたその言葉に、アンナが言葉通り難しそうな顔でそう言った。ファレルナを会場まで送り届けてくれた、あの前髪の長い少年の情報を自分たちは何も知らない。そして時間的にも、もうあの少年と会う事はどちらにしても不可能だ。




