第380話 聖女帰国(2)
「まあだが、あれは見習えるもんじゃねえしな・・・・・・・」
ドサッと背中からベッドに倒れ込みながら、そう呟く。見習えるものならあの胆力を見習いたいものだが、自分には無理だろう。なにせ、自分は普通の人間だ。というか、ただの10代のクソガキ。ファレルナが異常なだけであって、精神の強さは普通それほど強くはない。
だいたい影人がこんな事を思えば、イヴが茶々を入れてくるものなのだが、今は自分の部屋ということもあって、ペンデュラムは学校の鞄の内に仕舞っている。黒い宝石状態のイヴとの念話をするためには、ペンデュラムから半径1メートル以内にいなければならないので、今回イヴの声は影人には届かなかった。
「・・・・・・暇だな。確か聖女サマが帰るのは13時くらいだったか。こっから空港まで大体2時間半くらい。・・・・・・・・・ちょっくら外に出るのも悪くはねえか」
再びガバリと体を起こした影人は部屋の時計に視線を向けた。もちろん、直接会おうなどという事は考えていない。ただ、ヴァチカン政府専用の飛行機を実際に見てみるのもいいかと思っただけである。
先ほどはどこが休みだと思ったものだが、なんだかんだ夏休みという事に変わりはない。なら、普段と違う事をするのも醍醐味の1つだろう。
「とりあえず準備だな。ええと、水筒とタオルと財布と後は――」
影人はまず寝巻きから外出用の服に着替えるべく、タンスを開けた。
「聖女様は今日で帰っちゃうのかー・・・・・・・なんだか一瞬だったね」
「そうね、聖女フィーバーな1週間だったわ。経済バカみたいに潤ったんじゃないかしら」
「相変わらずコメントがズレてるね明夜・・・・・・」
現在の時刻は午前11時過ぎ。影人と同じく夏休み期間に突入した陽華と明夜は、喫茶店「しえら」にいた。夏休みという事もあり、2人とも私服姿である。
「とりあえずこの後空港行くけど、聖女様気づいてくれるかしら?」
黒と青色のTシャツに7部丈のズボンを履いた明夜が、アイスティーをストローで啜る。その問いに陽華はこう答えた。
「それよか空港内に入りきれるか、前列辺りに行けるかの問題があるよ。まずこの2つの問題をクリアしないと、そこまでいけないから」
ピンク色のTシャツに白の薄い羽織、膝より少し上くらいのスカートを履いた陽華が、昼のランチを食べながら左の指を2本立てる。お昼ご飯にはまだ少し早い時間ではあるが、陽華は腹ペコ大食らい系少女なので、我慢が出来ずランチを食している。ちなみに今日のメニューは、ミニサラダにスパゲティナポリタンである。
「確かにそうね・・・・・・」
陽華の言葉に明夜は頷いた。言わずもがな、ファレルナのファン或いは信者は日本にもいる。その人物たちは間違いなく、ファレルナが出国する空港に行くはずだ。




