第378話 聖女来日7(6)
「・・・・・・くくっ、そうか。1位としての、最強としての矜持はあるか」
その答えを聞いた影人は、スプリガン状態であるにも関わらず笑った。たぶんだが、スプリガン時に自分が光導姫に笑みを見せるのは初めてではないだろうか。
「スプリガンさんも笑われるんですね。そちらの方が素敵ですよ?」
「御託はいい。・・・・・・・・・あんたは正直に全ての質問に答えた。だから、今日殺しはしない」
影人は右手でパチリと指を鳴らした。するとファレルナの周囲にあった杭が、跡形もなく虚空へと溶けていった。
「ありがとうございます、約束を守ってくださって。やはり、私はあなたと敵対したくはありません。あなたはきっと、優しい人でしょうから」
「・・・・・・・・・・よくもまあ、そう言えるもんだ。人を見る目がないな、あんたは」
呆れた声で影人はそう呟いた。きっと脅していた人間に「優しい人」と評価を下すのは、この少女くらいだろう。
「それでスプリガンさん。私はあなたの邪魔になる人間なのでしょうか?」
影人が質問を行ったそもそもの名目について、ファレルナは質問してきた。その辺りを影人に聞いて来るという事は、やはり肝が据わっているということか。
「そうだな・・・・・・・はっきり言えば、あんたは邪魔になりそうだ。覚悟と矜持と胆力、それに実力が伴っている奴は厄介以外の何者でもない。いずれ戦う事もあるかもな」
唐突に、影人の後ろに闇の渦が広がった。影人はその渦にもたれ掛かるように消えていった。
「え・・・・・・」
突然目の前から姿を消したスプリガン。ファレルナは思わずそう声を漏らした。
だが次の瞬間、スプリガンの声がなぜかファレルナの後ろから聞こえて来た。
「・・・・・・・だが、少なくとも今日じゃない。じゃあな『聖女』。世界最強の光導姫。あんたの光は、眩しかった」
転移によりファレルナの真後ろに出現した影人が、振り返らずにそう述べる。
「・・・・・・・褒め言葉として受け取っておきます。さようなら、スプリガンさん。あなたの闇は私が見通せないほどに深かった」
多少驚きはしたものの、ファレルナも振り返ることはせずにそう言葉を返した。
「ふん・・・・・・当然だ」
ファレルナに背を向けている影人は、ほんの少しだけ笑みを浮かべた。ぶっちゃけた話、眩しかったとかその場のノリで言ってみただけなのだが、なんか似た答えが返ってきて、ちょっとビックリした影人であった。
そして、その言葉を最後に、影人は再び自分の前に出した闇の渦に消えた。収穫は十分だった。
「・・・・・・また会えるでしょうか。夜の闇のような人よ」
残されたファレルナは、ポツリとそんな事を呟いた。




