第377話 聖女来日7(5)
「難しい質問ですね・・・・・・・正直に言ってしまえば、時と場合による、でしょうか」
「! ・・・・・・・・・・・意外だな。あんたは明らかに信念を取る人間だと思っていたが。所詮、『聖女』も人間か」
まさかの答えに影人は内心驚いた。半ば確信を抱いていた予想が裏切られたからだ。とりあえず、煽り馬鹿にするような言葉を付け加えたが、ファレルナはその挑発には乗ってこなかった。
「ええ。もちろん私も人間ですよ、スプリガンさん。あなたが人間かどうかは分かりませんが、私は人間です」
ただただマイペースに言葉を述べながら、ファレルナはその理由について話し始めた。
「絶対に信念を取らなければならない場合は、私は喜んで命よりも信念を取ります。ですがそれ以外の場合は、私は命を取ると思います。だって、命あっての信念ですもの。それに、こんな私でも死んでしまえば、少なからず悲しんでくれる人々がいます。・・・・・・私はそんな人々を、私のことで出来るだけ悲しませたくはないんです」
どこまでも真っ直ぐに、それこそ揺るぎない信念を感じさせる瞳でファレルナはきっぱりとそう言った。
(・・・・・・・・・・・・クソが。思ってた何倍も厄介じゃねえか、聖女サマは)
信念という答えよりもよっぽど厄介だ。どうやら自分はファレルナという人間を見誤っていたらしい。
(善意100パーセントの歪んだ人間。だっつうに、覚悟と自分の重さを理解してやがる。普通こういった人間は自分の重さが欠如してやがるもんだろうが・・・・・・・・・矛盾してやがる)
だが、その矛盾をしっかりと内包しているのが、ファレルナという少女なのだろう。影人は冷たい汗が一筋流れたのを感じた。
「なるほどな、理解した。・・・・・・・次は3つ目、最後の質問だ」
ファレルナの評価を内心で書き換えながら、影人は言葉通り最後の質問を行った。
「――『聖女』、あんたは俺と戦ってあんたが勝てると思っているか。これも安心しろ、今からやり合おうなんて考えちゃいない」
試すような目で影人はそう言った。さあ、世界最強の光導姫はどう答えるか。
「・・・・・・・・・正直な事を申しますと、分かりません。私は実際のあなたの実力を知りません。知っているのは、伝聞によるあなたの実力です。・・・・・フェリート、レイゼロール、冥、最上位の実力者たちを退けたあなたは、間違いなく強い。ですが、私は敢えてこう言いましょう」
暖かさと強さ、それらを両方兼ね備えた目でしっかりとスプリガンの瞳を見つめながら、ファレルナは笑顔でこう宣言した。
「私は負けません。もし、やむを得ずあなたと戦う事があり、あなたが真の闇に沈んだのならば、その時は私が勝ちます」




