第376話 聖女来日7(4)
『・・・・・・・恐ろしい直感ですね。ファレルナにそういった直感があることは知っていましたが、まさかこれほどのものとは・・・・』
影人を通してこの場を見ていたソレイユの声が、影人の内に響いた。ファレルナの今の言葉も、ソレイユは影人の聴覚を通して聞いていた。
(はっ、『聖女』なだけあって神に愛されてんじゃねえか? その直感も神からの贈り物で、もしかしたら俺の正体もバレたりしてな)
ふざけた感じで、影人はソレイユの念話にそう返した。神であるソレイユにこういった皮肉な冗談を言えるという事は、自分にはまだ余裕があるということだ。影人は出来るだけ自分を客観視しながら、そんな事を思った。
『あなたらしい皮肉ですね・・・・・・確かにファレルナは私以外の他の神に愛されているのでは、と思う事もありますが、あなたの正体がバレるという事はないのでご安心を。スプリガン状態のあなたは、究極の偽装形態でもありますから』
(んな事は分かってるよ。ただの冗談だろ)
少し棘のある声でそう言って来たソレイユ。そんなソレイユに、影人はつまらなさそうな声でそう言葉を返した。
「・・・・・・・・・・・どうやら、あんたはよっぽどおめでたい奴みたいだな。はたまた、危機感が欠如してるのか」
とりあえず、影人はスプリガンとしてファレルナの言葉にそう答えた。出来るだけ馬鹿にしたような声音で。もちろん演技だが。
「ふふっ、よく言われます。ですが、私はそれでいいと思っていますよ。なぜなら、それが私だからです」
「・・・・・哲学の話をしに来たんじゃない。あんたが自分をどう思っていようが、俺には関係ない。それより、2つ目の質問だ」
イマイチ調子が狂う。マイペースというのか、ファレルナは昨日影人と話した時と何ら変わらない。しかし、その戸惑いを表情に出すわけにはいかない。影人は次の質問をファレルナにぶつけた。
「あんたは、自分の命と自分の信念・・・・・・・・どちらを取る人間だ?」
「・・・・・・・その質問は脅しでしょうか?」
「違う、単純な質問だ。確かにそう聞こえるかもしれないが、俺は最初に言った誓いは守る。だから、それ以外であんたの命を奪うことはない」
首を傾げたファレルナに影人は明確な否定の説明を行う。ファレルナの置かれている状況からすれば、確かに今の質問は脅しにも聞こえるだろう。
(たぶん、聖女サマの答えは信念の方だろうがな・・・・・)
自分の命か信念か。大多数の人間――もちろん影人も含まれる――は、当たり前だが命を取る。それは生物としての本能だ。誰だって死にたくはない。
だが非常に稀ではあるが、中には信念を取る人間もいる。そして、これは影人の予想でしかないが、光導姫や守護者になる人間は、信念を取る人間が多いと思う。まあ、これは「光導姫や守護者は、芯のある善人が多そうだがら」という影人の勝手な主観に基づいているのだが。
一応、この質問にもちゃんと意味はある。命を取る人間か、信念を取る人間かで、ファレルナが厄介な人間かどうかを推し量れる。命を取る人間は、危険な状況になれば逃げる事を考える。しかし、信念を取る人間は危険な状況でも逃げない。影人からしてみれば、明らかに後者の方が厄介だ。
影人はファレルナの分かっている限りの人となりから、ファレルナは後者だと予想していたのだが、しかしファレルナの答えは影人が予想したものではなかった。




