第375話 聖女来日7(3)
「なるほど・・・・・・そうなんですか。スプリガンさん、私があなたの邪魔になるかどうかとは、具体的にどのように判断されるのでしょうか?」
ふむふむと、客観的に聞いても中々えげつない話の内容に、ファレルナは何でも無いように頷いてみせた。そしてその内容を理解した上で、ファレルナはそんな疑問を影人へと飛ばしてきた。
「・・・・・・・・・簡単だ。軽く俺の質問に答えてくれるだけでいい。その際、あんたがどんな答えを返そうとも、それが真実のものであれば俺は何も危害を加えない。そう誓おう。今回はあくまで確かめるだけだからな」
その余りにも速い切り返しに、やっぱりこの少女は頭がちょっとアレなんじゃないかと思い始めた影人だが、そんな様子はおくびにも出さずに影人はそう答えた。
(つーか、聖女サマに危害なんか加えないし、殺すなんて事は絶対にないがな。今の言葉もただの脅しだし)
当たり前ではあるが、影人がファレルナを殺すことなどはありえない。なぜなら影人が所属している本当のサイドは、光導姫・守護者サイドだからだ。
だが、その事を知っているのはソレイユだけ。ゆえに、影人の言葉は正しく脅しとして成立しているはずなのだが、ファレルナの反応に恐怖の色などは全く見受けられなかった。
(やっぱり、一筋縄じゃいかなさそうだな・・・・・・・)
気合いを入れ直しながら、影人はその質問を開始した。
「まず1つめの質問だ。あんたは俺の事をどう思っている? 『提督』のように俺を敵と見なしているのか、『巫女』のように俺に和平的な姿勢か。あんたはどっちだ?」
夏の夜に影人の質問が溶けていく。この質問こそが最も重要な質問であると言っていいだろう。影人はそれほどでもないが、ソレイユが最も知りたがっている質問だ。
「私の意見は決まっていますよ。私は風音さん・・・・・『巫女』と同じように、あなたに和平的に、出来れば手を取り合いたいと思っています」
まるで周囲の杭など存在していないかのように、ファレルナは笑顔を浮かべる。脅しのこともあるので、おそらく嘘ではないだろう。
「・・・・・・・・あんたは変わってるな。この状況で俺に脅されながらも、その姿勢は変わらないか」
「ええ、私はあなたは悪い人ではないと思っています。光導姫や守護者を何度も助けたあなたを私は信じたいと思っています。それに・・・・・・これは私の勘なのですが、あなたのこの闇の力からは悪意を感じられないような気がします。あなたは、あくまで私を試しているだけ。そう感じられるんです」
「っ・・・・・・・・・・」
その言葉に、影人は思わず息を呑んでしまった。なぜなら、ファレルナのその言葉は真実であるからだ。
(聖女サマの直感ってやつはどうなってんだ・・・・・・!)
思わず影人は内心そう言った。何をどう感じれば、この状況でそんな言葉が出てくるのか。まるで全てを見通しているかのようだ。そんなことはないはずなのに、この時の影人は珍しくそう思った。




