第374話 聖女来日7(2)
「・・・・・・・・・・別に深い理由はない。ただランキング1位、最強の光導姫がどんな奴なのか気まぐれに気になっただけだ」
ファレルナが影人に問うた質問は当然のものだ。なぜ戦闘中に出現する正体不明・目的不明の怪人が、戦闘が終わったタイミングで姿を現したのか。ファレルナの質問の意味の1つとして影人はそう考えた。
まあこの質問の意味はもっとシンプルで、「なぜ自分の前に現れたのか」というそのままの意味合いが1番強いのだろうが。
「そうでしたか・・・・・・・それは光栄なことですね。私などに興味を持ってくださって。では、お話いたしましょうか」
影人の、スプリガンの答えを聞いたファレルナが胸の前で手を組み合わせ、そんな事を言ってきた。もちろんと言っては変な話ではあるが、笑顔でである。
(はっ・・・・・・・・聖女サマらしいな。話し合い、ね。だが・・・・・・ところがぎっちょんってとこだな。俺がしに来たのは話し合いじゃない)
そう。今日自分がファレルナの前にスプリガンとして現れた理由は、ファレルナの自分に対する反応を窺うためだ。そういった点から見れば、今のところ『聖女』は非常にスプリガンに対して友好的に見える。
しかし影人が、ソレイユが見たいのは、そういった上辺だけの反応ではなかった。
「・・・・・・・・・・・何か勘違いをしてるみたいだな、『聖女』。俺がしに来たのは話し合いじゃない。俺が今日しに来たのは――」
スプリガンの金の瞳が少し細められる。その次の瞬間、
ファレルナの周囲に闇色の杭が複数本出現した。
「これは・・・・・・・・」
ファレルナが驚いたように自分の周囲に突然現れた杭に視線を配った。いずれの杭の先端も自分に向いている。
「――『聖女』。あんたという人間が、俺の邪魔になるかどうか。それを確かめる。そいつが、俺が気まぐれに気になった事だ。まあ、最初に言ったように深い理由はないがな」
冷たい声で影人はそう宣言した。例え『聖女』と言えども、人間。そして人間の本音というものは、窮地にこそ吐き出される。影人と、いまこの瞬間、影人の視界と聴覚を共有しているソレイユはそれが知りたいのだ。
「1つ安心しろ。その杭は単なる舞台装置だ。あんたが抵抗しない限りは、その場から動かない。だが、例えばあんたが変身して抵抗しようとすれば、その時は容赦なくその杭の全てがあんたを貫く。・・・・・・・・平たく言えば、死ぬって事だ」
さらりと恐ろしい事を述べながら、影人は言葉を続けた。
「もう1つ。その杭があんたを貫く条件がある。それはあんたが嘘を言った時だ。つまり死にたくなかったら、嘘を言わなきゃいい。簡単な事だろ?」
この条件じたいが嘘なんだがな、と心の中で付け加えながら、影人は真っ赤な嘘をつく。嘘を言うなと言った本人が、すぐに嘘をつくというのは中々の皮肉だなと影人は思った。




