第372話 聖女来日6(6)
「――神の御加護があらんことを」
気を失っている少年にファレルナはそう言葉を紡いだ。そして軽く祈りを捧げる。
ファレルナが扇陣高校で講演を行った日の夜。ソレイユから闇奴出現を告げる合図を受けたファレルナは、ソレイユの転移により日本の閑静な住宅街にいた。光導姫として闇奴を浄化するためだ。そのため、周囲に護衛やお付きはいない。
幸い闇奴はそれ程手こずる相手ではなく、ファレルナが変身をしてから5秒で浄化は完了した。今は闇奴化していた人間を介抱しているだけだ。そのため、変身ももう解いている。
「さて浄化は完了しましたし、後はソレイユ様の転移待ちですね」
闇奴化していた少年に祈りを捧げ終えたファレルナが立ち上がる。今ファレルナは電灯の下にただずんでいる。明かりの下なら、気を失っている少年を早い段階で誰かが見つけてくれるだろうと思っての事だ。
そんな時だった。どこからかコツコツと足音が響いて来た。
(人の足音・・・・・・誰かがこちらにやって来るようですね)
その事をファレルナはそれ程気にはしていなかった。ファレルナは変身を解いている。という事は人避けの結界がなくなったということだ。であるならば、普通の人間もこの周囲を無意識的に忌避しなくなる。
足音が唐突に止まった。そこで初めてファレルナは少し疑問を抱いた。なぜ、足音が止まったのかと。
ファレルナは足音が止まった方向に顔を向ける。すると自分のいる場所から少しだけ離れた場所、電灯の下に1人の人物がただずんでいた。
「・・・・・・・・・・」
その人物は一言で表すならば、黒かった。
黒い髪に黒い外套。紺色のズボンに黒の編み上げブーツ。ただ、胸元を飾る深紅のネクタイだけが映える色を放っている。
その人物が俯いていた顔を上げる。その瞳の色は金色だった。
「あなたは・・・・・・・・・・」
その人物の特徴に、ファレルナは覚えがあった。いずれの特徴も、ソレイユが記したある人物の特徴に一致していたからだ。
「・・・・・・・・・光導姫ランキング1位『聖女』だな」
「・・・・・・・・・はい、そう言うあなたは――?」
その人物がファレルナに言葉を投げかけてきた。ファレルナはその人物の名前を予想しながらも、半ば無意識的にそう聞き返していた。
「・・・・・・スプリガン。それが俺の名だ」
黒衣の怪人――スプリガンはその問いに自分の名を答えとして返した。
電灯の下、スプリガンと『聖女』は相見えた。




