第370話 聖女来日6(4)
確かに2人は光司の気遣いを契機として、再び前を向いた。だが、完全に前を向けたわけではない。2人にはまだ小さな疑念もある。それは陽華と明夜が1番分かっている事だった。
スプリガンは本当に自分たちと敵対する道を選んだのではないか。もしそうだとすれば、自分たちは――
「「・・・・・・」」
黙ってしまった2人。そんな2人を見たファレルナはこんな言葉を送った。
「部外者の私の言葉ですので、あまり助けになるかは分かりませんが・・・・・・・・・・信じるという行為は難しい事だと私は思います。もちろん私は神を信じていますが、常に神を信じられているかは正直に言って、分かりません」
胸の十字架に視線を落としたファレルナが、そんな衝撃の言葉を述べた。
「「え・・・・・・・・・!?」」
その言葉に陽華と明夜は驚愕した。風音とアイティレも驚いたような表情を浮かべている。
だがそれも無理なからぬ事だろう。なにせ目の前にいるこの少女は『聖女』。死後に列聖される事が確定し、世界中に信者を持つ宗教の今やシンボルにまでなっている少女だ。そんな彼女が常に神を信じられているかは分からないと言ったのだ。聞く人が聞けば、腰を抜かすのではないか。その言葉にはそれほどの衝撃があった。
「それに関してはきっと私の信心不足だとは思います。ですが、人間には誰しも信じるものに疑念を抱く時があります。そしてそれは、普通の事でもあると思うんです。だって疑念を抱くという事は、その信じているものを理解しようとしているからでしょう? 完全にその全てを、いい面だけ信じてしまえばそれはただの盲信です。だから、お2人は正しくスプリガンさんを信じていると私は思いますよ」
「と、疑念を指摘した私が言うのも変なお話だとは思いますけど」そうファレルナは付け加えて、話を終えた。ファレルナの話を聞き終えた陽華と明夜は、しばらく黙っていたかと思うと、唐突にファレルナに頭を下げた。
「聖女様・・・・・・・・・・ありがとうございました! 聖女様のお話を聞いたら、なんか私はまだ彼を信じていいんだなって思いました!」
「私も、ありがとうございました。疑念も引っくるめて信じるという事、しかと胸に刻みました」
完全に霧が晴れたような声で2人はファレルナにお礼を言う。考え方の違い、と言ってしまえばそれまでだが、ファレルナの言葉は2人の心の奥深くまで響いた。
「か、顔を上げてください。そんな私は頭を下げられるような事は何も・・・・・・・!」
パタパタて手を振って、慌てるファレルナ。そしてそんな時、生徒会室のドアにノックの音が響き、スーツ姿の女性が半身だけ姿を現した。
「聖女様、そろそろお時間です。よろしければ・・・・・」
「あ、アンナさん。分かりました、あと少しだけ待ってくれませんか? 皆さんにお別れの挨拶をしたいので」
「・・・・・・分かりました。では、引き続き別室で待機しております」
アンナはそう言ってドアを閉めた。彼女のお付きであるアンナは、ファレルナが生徒会室で話をしている間、ずっと別室で待機していた。本来ならば、アンナも生徒会室に同席したかったのだが、生徒会室での会話はファレルナのプライベートな話だ。そこに同席するのは、流石にどうかと思いアンナは別室で待機していたのだ。




