第369話 聖女来日6(3)
「そうなのですか・・・・・・・・やはりスプリガンさんはお優しい方なんですね」
「「!?」」
「「え・・・・・・・・」」
話を聞き終えたファレルナが呟いたその言葉に、風音とアイティレは驚き、陽華と明夜はそんな声を漏らした。
「・・・・・・・ファレルナ、今の話を聞いた上で君は本当にそう思っているのか?」
ファレルナにアイティレが少し厳しい目を向ける。陽華と明夜の話は、光導姫や守護者を助けただけという都合の良い内容ではなかった。2人の話は、スプリガンが光導姫・守護者に対して攻撃を行ったこと、スプリガンが自分たちに対して敵対宣言を行ったことも含まれていた。
「はい、少なくとも私はそう思いました。確かにお話を聞いた限り、スプリガンさんは光導姫や守護者に対して攻撃を行ったのかもしれません。明確に敵になるという事を仰ったのかもしれません。ですが・・・・・・・・・それでも助けられた人がいるという事実もまた消えることはありません」
「「あ・・・・・・・」」
そのファレルナの言葉に、陽華と明夜は呆けたように再び声を漏らした。
「それに、人を助けた人に真の悪人はいないと私は思っています。例えどのような人であれ、人を助けることのできる人は優しい人だと私は思うんです」
それはファレルナの主観であった。だが、その主観に基づいた言葉は陽華と明夜の心に静かに響いた。まるで暖かいものが溶けていくように。
「・・・・・・・・ふふっ、なんだかとってもファレルナらしい言葉ね。あなたという人間の優しさが今の言葉から分かるわ」
今まで黙っていた風音が微笑を浮かべてそう言った。風音もこの前のスプリガンの敵対宣言を聞いて以来、スプリガンに対して複雑な心境であった。もしかしたら、スプリガンと共に戦う道もあるのではと考えていた風音。しかし、その提案は彼の言葉によって1度は砕かれた。
(でも、やっぱり私は彼とはあまり敵対したくない。たぶん、それが私の偽らざる感情)
1度スプリガンに助けられた風音にとって、どのような事実があろうとも彼は恩人だ。それは助けられた風音の感情。だから、出来ることならば風音はスプリガンと敵対したくないというのが、風音の本音だった。
「朝宮さん、月下さん。あなたたちはスプリガンさんの事を信用しているのでしょう。それはお2人の言葉の端々から感じ取れました。ですが、お2人がほんの少しの疑念を抱えていらっしゃる事も分かりました」
ファレルナの言葉により風音が自分の本音を自覚した中、ファレルナは陽華と明夜にその瞳を向けた。優しさと暖かさが両立した瞳だ。
「っ・・・・・・・やっぱりすごいですね聖女様は」
「初対面で、私たちの言葉からそこまで分かるんですね・・・・・・」
その言葉を受けた陽華と明夜は素直に、苦笑したようにそう呟いた。




