第368話 聖女来日6(2)
「あ、あの聖女様はアイティレさんといったいどんなお話をされていたんですか・・・・・・? あ、ちょっとした興味本位なので、無理に答えて下さらなくても全然大丈夫です!」
ファレルナの落ち込んだ顔を見た陽華が、慌ててそんな話題を振った。陽華がこう言ったのは、ファレルナに対する取っ掛かりの意味合いもあるが、ファレルナの気分を転換させるためだ。自分たちのせいで(陽華の主観だが)、聖女を落ち込ませたままではあまりに気が引ける。陽華はそう考え話題を振った。
「っ・・・・・・・・・・」
だが結果的にその質問は、3人が入ってきて有耶無耶になっていた、あの人物に関する話題を掘り返すものになってしまった。陽華がその言葉を述べた瞬間、アイティレだけが小さく息を吸って反応した。
「はい。アイティレさんとはちょっとした世間話をしていました。そして――そうでした、アイティレさんとはちょうど彼についての、スプリガンさんについてのお話をしていたんです」
「「「!?」」」
そのファレルナの言葉に、いや正確にはファレルナが放った「スプリガン」という固有名詞に、アイティレ以外の3人もそれぞれの反応を示した。
「あら? 皆さんのご反応・・・・・・・・・もしかしてスプリガンさんを皆さんご存じですか?」
3人の反応を見たファレルナがそんな言葉を漏らした。皆さんとファレルナは言ったが、実はこの言葉は陽華と明夜に向けられたものであった。アイティレは言わずもがな、風音もランキング4位。ソレイユの手紙は風音にも届けられている。だが、陽華と明夜はランキング10位でもなければ、圏外だ。
ゆえにファレルナはこう思った。「なぜランキング10位以外の者が彼の事を知っているのだろうと」
ファレルナは外国の光導姫。ゆえに日本の光導姫や守護者のほとんどが、噂とはいえスプリガンの事を知っているという事実を知らない。実際、外国の光導姫と守護者のほとんど全てはスプリガンの事を知らない。その違いは、スプリガンが今のところ日本にしか出現していないということに起因している。
(ファレルナのこの反応も私からしてみれば分からなくはないな。私も最初はスプリガンの事はトップシークレットの情報だと誤解していたが、日本に来てからその認識が変わったからな)
ファレルナの実際の質問の対象とその意味合いを理解していたのは、同じく外国の光導姫であるアイティレだけだった。アイティレも当初は10位以外の光導姫や守護者がスプリガンの事を知っているのには戸惑ったが、その原因を今は理解していた。
「ええと、はい・・・・・・・その、実は私たち――」
「話せばけっこう長くなるんですけど・・・・・・・」
自分たちが質問をされたという認識はなかったが、風音とアイティレが何も言わない様子を見て、陽華と明夜はファレルナに自分たちとスプリガンのことについて語った。ただし、出来るだけ手短にだが。この手短にというのは、ファレルナは有名人であり国賓なので話せる時間はあまりないだろうという、陽華と明夜の推測が関係していた。




