第367話 聖女来日6(1)
生徒会室のドアが開かれ、新たに3人の少女が入室してきた。その内の1人髪を1つに括った少女、連華寺風音が、ファレルナとアイティレに向かって声を掛けた。
「お待たせ。ごめんなさいね、2人とも。ちょっと講堂内の点検をしていたから遅くなっちゃって」
風音の謝罪の言葉にアイティレは「構わない」と言葉を返し、ファレルナも「全然待っていませんよ? お気になさらないでください風音さん」と笑みを浮かべた。
「それよりと言っては失礼かもしれませんが、そちらの方たちは? おそらく、初対面だと思うのですが」
「「っ・・・・・・・!」」
ファレルナの視線が風音の後ろにいた陽華と明夜に注がれる。聖女が自分たちを見ている。その事実に2人は緊張した。
「あ、あのっ! 初めまして聖女様! 私、朝宮陽華って言います! 光導姫です、よろしくお願いします!」
「同じく光導姫の月下明夜です。光導姫としてはまだ新人ですが、そ、そのよろしくお願いします」
陽華はガチガチといった感じでそう言って、明夜も珍しく声を上擦らせた。そんな2人の様子を見た風音は、「あはは、まあそうなるよね」と苦笑した。
「というわけでって言うのもおかしいけど、この2人はまだ光導姫になって新人なの。でも目標としてはランキング1位、つまりあなたのいる座を目指しているのよファレルナ。だから、1位のあなたに会いたいって今日は他校から来たんだけど、せっかくあなたが来ているんだから、ちょっとお話でもと思って。ごめんなさい、迷惑だったかしら?」
風音が少し長めの補足説明を行った。風音のその説明を聞いたファレルナは「全く迷惑ではありませんよ」と言って、陽華と明夜に再び顔を向けた。
「むしろ他の光導姫の方とお話できるのは、私もとても楽しいので。朝宮さんに月下さん。初めまして、私はファレルナ・マリア・ミュルセールと申します。私の事はお気軽にルーナとお呼びください」
ファレルナが座りながら2人に向かって挨拶を返した。ファレルナの挨拶を聞いた2人は慌てたようにこう言った。
「そ、そんな聖女様に愛称なんて私とても!」
「さ、さすがにそれは私も気が引きまくりです」
「そうですか、残念です。皆さん、中々私の事をそうは呼んでくれないので。あのお兄さんも、結局そうは呼んでくれませんでした」
2人の反応を見たファレルナは少し残念そうな顔でそう呟いた。ファレルナの言ったお兄さんというのが、誰のことを指しているのかファレルナ以外の人物には分からなかったが、その事については誰も質問を挟まなかった。
「あまり無茶を言ってやるな、ファレルナ。君の事を愛称で呼ぶのは中々に覚悟がいる行為なんだよ」
落ち込むファレルナにアイティレがそう言った。アイティレですら、ファレルナを愛称で呼ぶ事はない。別にアイティレはファレルナを嫌っているのではない。ただ、世界に名だたる『聖女』を愛称で呼ぶのは一般人ならば気が引けるというだけだ。




