第365話 聖女来日5(4)
「――いいスピーチだった。自分の戦う理由と光導姫になった理由を改めて思い出したよ、ファレルナ」
「そう言っていただけて本当に嬉しいです。お久しぶりです、アイティレさん」
扇陣高校の生徒会室。互いを対面に見つめ合いながら、2人の少女が和やかそうに話をしていた。1人は光導姫ランキング1位『聖女』、もう1人は光導姫ランキング3位『提督』の名を冠する少女である。
「ああ、そうだな。君とこうして日本で話をするとは思っていなかったが、久しぶりだ」
口角を普段よりも少し上げてアイティレはそう言った。ファレルナとこうして会うのは約1年ぶりだろうか。最後に会ったのは、光導姫として共闘した時だ。
「そういえば、この学校の制服を着ていらっしゃるという事は、アイティレさんはこちらの学校に留学されているんですか?」
ファレルナが話題としてそんな質問をアイティレに投げかけてきた。アイティレはその質問に、「ああ、そうだ」と答えた。
ちなみにではあるが、今アイティレが話している言語は日本語である。ファレルナに限った話ならば、アイティレは別に母語であるロシア語で話しても良いのだが、そこはまあ流れというやつだ。どうせ後で風音や陽華と明夜の2人も合流してくる。その時に一々言語を切り替えるのは色々と面倒だ。
「とりあえず1年ほどはまだ日本にいるつもりだよ。ここは日本の光導姫と守護者の為の学校だが、友人も出来て中々どうして楽しくやれている」
フッと笑い、アイティレはそんな感想をファレルナに述べた。
その胸の内に、自分が日本にやって来た真の目的を隠しながら。
(この純真そのものの少女に嘘をつくのは、多少心苦しいが・・・・・・・・・・そこは許してもらおう。ふっ、私も嘘が上手くなってきたものだな)
「なるほど、それは良かったですね! いいですね、私も学校というものに憧れてしまいます。ヴァチカンでは修道女の学校に通った事もありましたが、結局半年ほどで終わってしまいましたし・・・・・ふふっ、アイティレさんがちょっとばかり羨ましいです」
内心自嘲しているアイティレをよそに、ファレルナは笑みを浮かべた。そんなファレルナの言葉に、アイティレは内心の自嘲をやめて言葉を紡ぐ。
「君が羨むこともあるんだな。そうだ、最近光導姫の後輩を鍛えているんだが、これが中々気合いのある者たちなんだ。何度倒れても向かってくる。彼女たちは不屈の心を持っている。きっといい光導姫になるよ」
陽華と明夜の事を思い浮かべながら、アイティレがそんな話をする。本人たちにはこんな素直な賞賛を言った事はない。そういった面は、アイティレは苦手だからだ。
「そうなんですか。それは将来が楽しみな人たちですね。あ、そうでした。実は私、アイティレさんに聞きたい事があったんです」
「聞きたい事? いったい何かな。私に答えられる事なら、喜んで答えるよ」
軽く首を傾げながら、アイティレが銀髪の髪を揺らす。ファレルナが自分に聞きたい事とはいったい何なのか。
「はい、アイティレさんもランキング3位。ですので、ソレイユ様から手紙をお受け取りになったと思います。その手紙に書かれていた人物、スプリガンに対して、アイティレさんはどうお思いになっていますか?」




