第363話 聖女来日5(2)
「皆さまが光導姫や守護者になった理由も、戦い続けている理由も、それらは全て尊いものだと私は思っています。皆さんがこの場にいるという事、それ自体が人の心の光、その証明なのです」
力強く、それでいて暖かさを感じさせる言葉だ。『聖女』と呼ばれる少女は最後にこう言った。
「皆さまと同じく人々の平穏を守る者として、皆さまに心より感謝いたします。辛く苦しい時もあるでしょうが、皆さまがこれからも人々の平穏を守る者として共に戦ってくれる事を願っています。――ご静聴ありがとうございました」
そう言って、ファレルナはニコリと笑い頭を下げた。一瞬の静寂が講堂内に広がる。だがその直後、割れんばかりの拍手の音が講堂内に響き渡った。
「すごい、すごいよ明夜! 私何だか感動してる! 聖女様の言葉がすっごく心に響いたよ!」
「聖女様の生のスピーチ・・・・・・そうね、これは感動ものだったわ。不思議、無性に心が沸き立って来る・・・・・」
パチパチと他の生徒たちと同様に拍手をしながら、陽華と明夜はそんな言葉を呟いた。陽華は目に見えて興奮しており、明夜も一見すると普段と変わらないように見えるが、内心はかなり心を動かされていた。
「・・・・・・・・・・・・ご立派なこと」
(ん・・・・・・?)
皆の拍手の喝采が場を支配する中、陽華は誰かの呟きを聞いた。拍手の音にかき消されてよくは聞こえなかったが、どうやら陽華の隣の黒髪の女子生徒が何かを呟いたようだ。気がついたのは陽華だけのようで、明夜は変わらず正面を向いて拍手を送っていた。
陽華がチラリと隣の女子生徒を見てみると、女子生徒も拍手をしていた。だが、陽華や明夜、その他の生徒たちとは違い、その拍手はどこか熱がこもっていなかった。
陽華がそんな女子生徒に気を取られていた間に、ファレルナは壇上から退いていた。それに合わせて拍手も一旦やんでいる。
「ファレルナさん、素晴らしいお話をありがとうございました。皆さん、貴重なお時間を割いてお話をしてくださったファレルナさんに、もう1度盛大な拍手を!」
代わりに壇上に再び上がった風音が、もう1度拍手を求めた。講堂内に再び拍手の音が響き渡る。もちろん、陽華と明夜ももう1度拍手を送った。
(やっばり・・・・・・・・隣の人の拍手、どこか軽いというか空虚な感じがする)
乾いた、とでも表現すればいいのか。隣に座る女子生徒の拍手の音に陽華は違和感を持った。
「では、これにてファレルナさんによる講演会を閉会とさせていただきます。会場の皆さんはファレルナさんがご退場してから席をお立ちください。皆さんの退場の指示はこちらで行います」
陽華が隣に気を取られている間に風音は閉会の宣言を行った。それに合わせて、明かりも全て点灯した。陽華も視線を正面へと戻す。ファレルナが会場にいる人々に手を振りながら退場する。ファレルナの隣にはスーツ姿の女性がいた。きっと護衛だろうと陽華は思った。




