第362話 聖女来日5(1)
「皆さんはどのような思いから光導姫や守護者になったのでしょうか? 光導姫や守護者になる理由は人それぞれです。誰かを助けたい、誰かを守りたい、対価を求めて光導姫や守護者になった人たちもいると思います」
ファレルナの声が地下の講堂内に響き渡る。ファレルナの声は聞く者を安らかな気持ちにさせるような声だった。
「私が光導姫になった理由は、闇に苦しむ人々を助けたいと思ったからです。皆さんもご存じの通り、闇奴や闇人は人の心の闇が暴走した姿。光の浄化でしかその闇を祓い人に戻すことは出来ません」
ただ真っ直ぐに正面を見つめ、穏やかな顔をしながらファレルナは言葉を続けていく。ファレルナの声以外、この場を支配しているものは静寂だけであった。
「己の抱える闇に支配され、ただ破壊の衝動に突き動かされる闇奴。闇奴が知能を得た闇人。・・・・・・・・私はそんな闇奴や闇人が暴れている姿に悲しさを覚えます」
しんみりとしたような声音でファレルナは、その悲しさについて語った。
「確かに彼らは闇を抱えていたかもしれません。ですが、彼らはその闇を利用されただけなのです。己の闇に身を焼かれ、まるでその苦しみから逃れるように破壊する事しか出来ない。私には闇奴や闇人がそう見えてしまいます」
自分の主観について語るファレルナ。ファレルナの主観は傍からみればあまりに優しすぎるもの。慈悲の心が伺えるものだった。
「「・・・・・・・」」
陽華と明夜、それ以外の扇陣高校の生徒たちは、ファレルナの言葉が心の底からのものであるという事を、頭や表情の観察などといったものからではなく心で感じていた。何故だろうか。ファレルナの言葉は心に直接語りかけてくるような感じがした。
「先ほども述べましたが、私が光導姫になったのはそんな闇に苦しむ人たちを助けたいと思ったからです。私に助ける手段があるならと、私は喜んで光導姫になりました」
先ほどと同じと前置きしたように、ファレルナが自分の右手を胸に置きそう言った。確かに内容は先程とほとんど変わらなかった。だが、ファレルナの表情は明確に変わっていた。
今までの穏やかな表情ではなく、その表情は真面目な表情へと。優しさを宿していた瞳は、強い意志を宿した瞳へと変化した。
「今の私は僭越ながら光導姫のランキング1位、そして『聖女』の名を賜っています。非常に光栄な事ではありますが、私自身にその自覚はありません。私はただ自分の思いに従ってきただけです」
「「!」」
そのファレルナの変化に、力強い言葉に、陽華と明夜もそれ以外の全ての生徒たちも少しだけ驚いたような表情になる。




