第361話 聖女来日4(5)
「はあ、はあ・・・・・・・何とか間に合ったね」
「そうね・・・・・・本当にギリギリだったわ」
息を荒くしながらも、何とか2人はファレルナの秘密の講演が行われる会場へと辿り着いた。
「それにしても・・・・・・・・・・・この学校凄いね。まさか地下にこんなところがあるなんて」
「さすが光導姫と守護者の為の学校だわ。普通学校に地下施設なんかないでしょ・・・・・・」
2人は天井や地下を見渡しながら思わずそんな言葉を呟いた。そう、何とファレルナの講演の行われる会場とは地下にある講堂のような場所だったのだ。
「第2体育館地下にあるこの講堂の場所を知っているのは、本校の光導姫と守護者。あと、一部の教員たちだけであります。それはそうとしてお2人とも、素早く席に着席してください。席は後ろの方が空いているはずであります」
芝居がまだ席の空いている後方を指差しながら陽華と明夜にそう言った。芝居は何でも前の方に席があるらしくここで一旦お別れという流れになるようだ。
「分かりました! 本当にありがとう芝居さん!」
「感謝感激雨あられね」
2人はそう芝居に礼を述べて、小走りで後方の席を目指した。途中、制服の違う2人を見た扇陣高校の光導姫や守護者たちが訝しげな表情を浮かべていたが、事情を説明している余裕はない。2人は最後尾の席に着き、そこに座った。
「すいません、お隣失礼します!」
「え? あ、ああはい・・・・・・・・・」
陽華は隣に座っていた黒い長髪の女子生徒にそう断って席に座った。明夜も陽華の隣に座る。
その瞬間、煌々と明かりの灯っていた講堂内の光が全て消えた。そしてスポットライトがパッパッと壇上を輝かせた。
光に照らされた壇上には、陽華と明夜のよく知っている人物が立っていた。
「――皆さん、お待たせしました。生徒会長の連華寺風音です。予定の時間となりましたので、講演会を始めようと思います。今回お話をしてくださる方は、皆さんもご存じのこの方です」
「わっ、見て見て明夜。風音さんだよ」
「分かってるわよ」
マイクで凛とした言葉を述べる風音を見て、2人はヒソヒソと言葉を交わした。周囲の迷惑にならないようにするためだ。
そんな陽華と明夜の姿を見た陽華の隣に座っている女子生徒は、訝しげな表情を浮かべていた。おそらく他校の制服を着ている事が引っかかっているのだろうと、2人はあまりその女子生徒の視線を気にしていなかった。
風音が壇上から退き、スポットライトの光の焦点に1人の少女が現れた。その少女の姿を見た生徒たちの間からどよめきが起こる。
むろんここにいる生徒たちは、今日ここに誰がやって来るのかを事前に聞かされていた。だが来るとは知っていても、実際にその少女の姿を肉眼で見た生徒たちこう思わずにはいられなかった。「本当に来たのか」と。
「わぁ・・・・・・・・・あれが本物の聖女様」
「美しいわね・・・・・・外見ももちろん可愛らしいけど、身にまとうオーラが綺麗な気がする」
それは陽華と明夜も同じだった。テレビや動画などでしか見たことのなかった人物がいま2人の目の前にいる。
「日本の光導姫、守護者の皆さん。初めまして、私はファレルナ・マリア・ミュルセールと申します。今回は皆さんとお話し出来る機会があると聞き、非常に楽しみにしていました」
スポットライトの光にプラチナの髪を輝かせ、光導姫ランキング1位の少女による講演会の幕が上がった。




