第358話 聖女来日4(2)
「・・・・・・・・・まじかよ。いいよなー、金もらえるんだったら俺も喉から手が出るほど欲しいぜ。ま、無理なんだけどな」
「ま、まああなたの立場は特殊ですからね。残念ながら金銭は受け取れません」
ため息を吐く影人にソレイユは苦笑いを浮かべた。影人は普通の守護者ではない。正体不明、目的不明を演じる怪人スプリガン、影の守護者だ。その事を知っているのは当然ソレイユ以外にはいない。そのため国から金銭を受け取ることはできない。
「でも結局のところ、金銭を受け取る光導姫や守護者は非常に稀なんですがね。あなたが指摘したように光導姫や守護者になる大多数は、優しく正義感の強い者たちですから・・・・・・・・・・・・あと、先ほどからずっと気になっていたんですが、あなたが口に咥えてるものはいったい何なんですか?」
「コ○アシガレットだ。けっこううまいぜ、お前も1本どうだ?」
ジッと影人の咥えているお菓子を見てきたソレイユに、影人は制服の内ポケットからコ○アシガレットの箱を取り出した。こういった雰囲気重視のお菓子は、厨二病の前髪からすれば非常にいいお菓子なのだ。だって格好いいもの。
「そ、そうですか。ではお言葉に甘えて・・・・・・ん、けっこう甘いですねコレ」
影人から白い棒状のお菓子を受け取ったソレイユは、それを影人と同じように口に咥えた。見た目から想像はできなかったが、かなり甘い。
「まあな。俺は抹○シガレットもけっこう好きなんだが、それは別にどうでもいいな。話は戻るが、光導姫になる動機? だったか。それを言うならあの聖女サマは、朝宮や月下と同じ『困っている人たちを助けたいからって』ってタイプか?」
影人と同じくコ○アシガレットをピコピコと動かしているソレイユを見ながら、影人はそんな質問をした。影人は陽華と明夜が光導姫になった理由を知っている。だから、あの2人とどこか似ているファレルナもそういった理由から光導姫になったのではないかと影人は推測した。
「そうですね。動機については個人に関わる情報も含まれているので、詳しくは言えませんが、ファレルナの場合は陽華や明夜たちとほとんど同じ理由です。あの子も本当に優しい子ですから」
「やっぱそうか・・・・・・・善人って奴らは難儀なもんだな。俺からすれば理解に苦しむぜ」
口の中で溶けた菓子をガリッと歯で砕きながら、影人はそう呟いた。影人がスプリガンになったのにそんな高尚な理由はない。自分は半ば強制的にスプリガンの力を授かり、その仕事をここにいる女神から与えられた。
望まずにスプリガンになった影人には、望んで光導姫や守護者になった者たちの気持ちが分からない。なぜなら影人は善人ではないからだ。自分か他人が危険に陥れば、影人は迷うことなく自分を優先するだろう。
だが、光導姫や守護者になる多くの者はその逆の選択をする。例え自分が危険に陥ろうとも、他者を優先する。影人はそんな風にはなれない。だから理解するのが難しかった。




