第354話 聖女来日3(4)
「ああ、と言いたいところだが、まだ少し待ってくれないだろうか? 何でもファレルナ様が改めて君にお礼を言いたいらしい。もう少しすれば、ファレルナ様が来られるはずだ」
「は、はあ・・・・・・・とりあえず了解しました。では、もう少し待たせていただきます」
「ありがとう。少年、個人的に私は君にとてつもなく感謝している。君がファレルナ様をここに連れて来てくれるのがあと数分遅れていれば、私は職を失っていた。君は私の恩人だ」
ファレルナが来るまでの間、目の前の男性は影人にそう言ってきた。その顔は先ほどまでとは違い、少し柔らかくなっている。その表情を見た影人は場の空気が一気に緩まったのを感じた。
「そんな大げさ・・・・・ではないですね、お兄さんのお立場なら。見たところ、お兄さんはSPですもんね。なら、信用があなたの職に直結する・・・・・・・・ですよね?」
「ジーノでいい少年。それが私の名だ。君の指摘の通りだよ。私の業界は信用が第一。ましてや、今回の護衛対象は今や世界に名だたる『聖女』。その対象が失踪したと世間に広く知られれば、私の信用は完全になくなる。つまり職を失うのと同義だ。だから、君は正しく私の恩人だよ」
ジーノと名乗ったスキンヘッドの男性が、影人の言葉を肯定した。名前を教えてくれた事がきっかけというわけではないが、影人は先ほどからジーノにある種の気安さを感じていた。
「お力になれたようでよかったです、ジーノさん。そう言えば、ジーノさん日本語お上手ですね。どこかで習われたんですか?」
影人も少し表情を崩して、そんな質問をジーノに投げかけた。ファレルナの場合は実際のところ、日本語かオカルトかは分からないが、この人はちゃんと日本語を話している、はずだ。
「ああ、私はこう見えて日系のイタリア人なんだ。だから日本人の母から日本語を教えてもらった。こちらで言う所のハーフになるかな。ありがたいことに、日本語を習得していた事も関係して今回の仕事が来たんだ。全く、人生は何が役立つか分からないものだよ」
「へえ、そうだったんですか・・・・・・・」
ジーノの意外な事実に影人は軽く前髪の下の目を見開いた。すごくゴツいから純粋な外国人だと思っていたのだが、まさか日本人とイタリア人のハーフだとは思わなかった。どうやら、父方の遺伝は体型に現れたようだ。
それから影人は少しだけジーノと他愛のない話をしていた。すると、コンコンとノックの音がドアから聞こえてきた。ジーノが「どうぞ」と言葉を返すと、ガチャリとドアが開かれた。
部屋に2人の人物が入って来る。1人はファレルナ、もう1人は彼女に付き従うスーツ姿の女性だった。




