第351話 聖女来日3(1)
「・・・・・・・・・・ダメだ。思い返してみても唐突過ぎる」
今までの経緯を思い返していた影人は、頭を横に振った。目の前の『聖女』と出会った事もそうだが、子犬を助けるために躊躇なく川に飛び込んだ行為も、影人の常識というか理解の範疇を超えている。
(おい、ソレイユ。お前んとこの1位言い方は悪いが頭大丈夫か?)
『直球ですね・・・・・ですが、あなたの気持ちも分かります。私もファレルナが川に飛び込んだ時は、呆気にとられましたし』
ソレイユはため息を吐いて念話を続けた。
『見ての通り、ファレルナは信じられないくらい善意に満ちた子です。そして誰よりも優しい子でもある。・・・・・・・・・・ただ、ファレルナは気持ちを優先し過ぎる気があります。つまり考えるよりも先に行動してしまう。そこだけはファレルナの唯一の欠点であると言えるでしょう』
「かなりヤバイ欠点じゃねえか・・・・・・・まあ、奇跡的にケガしてなかっただけ今回はマシか。そう思うしかねえ・・・・・・」
ソレイユからファレルナの欠点を聞かされた影人は、そう感想を漏らして橋を見上げた。いま影人がいるのは橋の下。ここから見た限り橋の高さは8メートル程。どうやら水深はあまり深くなかったようで、ファレルナは川に飛び込んで子犬を助けた後にすぐに浅瀬まで歩いてきた。ケガをする事もなく、溺れる事がなくて本当によかったと影人は心の底から思った。
(つーか、何で俺が心配をせにゃならんのだ。こちとら『聖女』といるだけでもアホほどリスク高いってのに・・・・・・・・・やっぱり逃げたくなってきた。胃が痛てえ)
さすさすと影人が腹をさすっていると、子犬を抱えたファレルナが影人にこんな事を言ってきた。
「お兄さん、この子をどうしましょうか? 家族がいるなら、私はこの子を家族の元に届けたいのですが」
「・・・・・・・・・あのなあ、聖女サマ。そいつは現実的にかなり厳しい。その子犬、首輪も何もしてないだろ。つまり飼い犬か野良か分からないって事だ。俺たちに出来る事があるとすりゃ、警察にその子犬を届けてやることくらいだが、今はそれよりも聖女サマを会場に連れて行くのが優先だろう」
ファレルナのその提案に影人は素直にそう答えた。この少女ならば、そんな事も言い出しかねないとは思っていたが、今はそれよりも遥かに高い優先事項がある。影人はその事をファレルナに伝えた。
「では、この子はどうするのですか? この子をこのまま置いて行くのは、とても悲しいです」
影人の言葉を聞いたファレルナは、言葉通りとても悲しそうな表情を浮かべていた。子犬もファレルナを真似たのか「クゥーン・・・・・」とどこか悲しそうに鳴いた。
「別に置いていけなんて事は一言もいってねえよ。ただ、優先順位の問題だ。聖女サマを会場に連れて行った後、俺が近くの交番にその子犬を届けてやる。それでいいだろ」
プイっとファレルナから顔を背けて影人はそう呟いた。また面倒な事になったが、もうここまで来れば影人も色々と諦めていた。それに子犬を置いていけといえば、この少女がこの場から動かないであろう事は容易に予想できる。その事態は避けるべきだろう。




