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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
350/2051

第350話 聖女来日2(6)

「なら、ちょっと待ってくれ。まず先にやる事がある」

 影人はとりあえずカラカラの喉を潤すべく、手に持っていた緑茶を飲んだ。かなり渇いていたので、ペットボトルの中身は一気に半分ほどになった。

「ぷはっ・・・・・・・生き返るな」

 蓋を閉め一息ついた影人は、再び財布から硬貨を取り出した。そして今度はミネラルウォーターを購入した。

「ほら、飲めよ。水分取らないと熱中症になるぞ。あとタオルだ。まだ俺は使ってないからそこは安心してくれ」

「わわっ、お兄さん私は持ち合わせがございません。だからこれらを受け取るわけには・・・・・」

「聖女サマがなに俗なこと言ってんだ。いいから受け取れ。途中で倒れられたらこっちが困るんだよ」

 そう言って影人はファレルナにミネラルウォーターとタオルを押しつけた。ファレルナの格好は肌の露出が少ないドレス姿だ。そのため顔には汗が浮いている。今の日本では明らかに暑い格好なのは明白である。

「で、でも・・・・・・・・・・」

「いいから。じゃなきゃ、勝手に水飲ませて顔拭くぞ。それは嫌だろ」

 遂に影人の言葉に観念したのか、ファレルナは「す、すみません。では受け取らせていただきます」と申し訳なさそうな顔をして、影人からミネラルウォーターとタオルを受け取った。

 ファレルナはまずタオルで自分の顔の汗を拭い、それからペットボトルの水に口をつけた。

「ごくごく・・・・・・・はぁ、とても美味しいお水ですね! お兄さん、本当にありがとうございます。このご恩は一生忘れません」

「いや、重いからそれは逆に困るんだが・・・・ああ、タオルは返してもらうが、水はやるよ。俺には緑茶があるからな」

 水とタオルを返そうとしてきたファレルナから、影人はタオルだけ受け取りそう言った。他人が口をつけたペットボトルを飲むのは色々と気が引ける。それが『聖女』であるならば、尚更だ。

「じゃあ、そろそろ行くか。はぐれないように気を付けろよ、聖女サマ」

「はい、お兄さん。本当に色々とありがとうございます」

「そんなにお礼ばっか言わないでくれ。別に俺は普通の事をしてるだけだ」

 自転車を引きスマホの地図を見ながら、休日の前髪野朗は何の因果か迷子の『聖女』を連れて歩き始めた。











(おい、ソレイユ。返事が出来るなら返事してくれ)

 ファレルナと共に目的地の会場を目指していた影人は、心の中でソレイユに念話を行った。一応、この事態を報告しておかなければと思ったからだ。

『はい。影人? 珍しいですね、あなたの方から念話をしてくるなんて。何かありましたか?』

(おう、あったぜ。ビックリ仰天のふざけた話がな。実はな――)

 かくかくしかじかといった感じで、影人はソレイユについさっき起きた事を話し始めた。影人の話を最後まで聞いたソレイユは、影人にこう聞いてきた。

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・マジですか?』

(マジもマジ大マジだ。疑うんなら俺の視覚共有してみろよ)

 ソレイユがファレルナの姿を確認できるように影人は自分の隣を歩いているファレルナの姿を見つめた。といってもファレルナは影人の視線に気がついた様子はない。前髪様々である。

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・マジじゃないですか』

(だから言っただろうマジだって。嘘みたいな本当の話だ。まさか、お前が言ってた万が一が本当に起こるとはな)

 視覚を共有したらしいソレイユが漏らした言葉に、影人は投げやりな感じでそう呟いた。

『・・・・・・・・・影人、あなたの本質の事といい、今回のファレルナとの出会いといい・・・・・・・・・・あなた他の神に呪われているんじゃないですか?』

(そんなこと俺が知るかよ・・・・・・・・とりあえず俺はこの子を送るが、それ以降はもう関わらん。これは絶対だ)

 ソレイユの疑わしそうな声を聞きながら、影人はそう誓った。というか、もう関われないというのが現実な気がするが、とにかくそう誓った。

「? お兄さん、あれは・・・・・・」

「ん、なんだ?」

 いまファレルナと影人は小さな橋を渡っているのだが、ファレルナが下の川の方を指差しながら、そう呟いた。

「キャウン! キャウン!」

 ファレルナの指差す方を見てみると、白い子犬らしきものが声を上げながら川に流されていた。もう少しで影人たちのいる真下まで流れてくるだろう。今のところバタバタと足を動かして溺れてはいないようだが、いつ力尽きるかわかったものではない。

「子犬だな・・・・・・・・・可哀想だが、俺らに出来ることは――」

 影人が諦めたように言葉を紡ごうとした時、ファレルナが突然こう言った。

「お兄さん、すみませんが少しこれを持っていてくれませんか?」

「え? ああ、それはいいが・・・・・・・」

 ファレルナがペットボトルを影人に渡してきた。影人は反射的にそのペットボトルを受け取った。いったいどうしたと影人が聞こうとした次の瞬間、

「えい!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 ファレルナは橋から川に飛び込んだ。

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