第348話 聖女来日2(4)
そのファレルナの答えに、影人は眉を寄せた。疑問からではない。ただ、目の前の少女がいったい何を言っているのか理解しきれなかっただけだ。
そして今更だが、この少女は流暢に日本語を話すなと影人は感じた。確かテレビでやっていたが、『聖女』の言葉は万人が理解できるという。この事実もファレルナが起こした「奇跡」であると言われている。オカルトじみた話ではあるが、これは事実であるらしい。実際、ファレルナの言葉に翻訳者はいらないとこれもテレビで言っていた気がする。そこら辺の事情は学者たちが躍起になって謎を解明しようとしているらしい。
つまりそのオカルト話を信じるとするならば、厳密にはファレルナは日本語を話しているわけではないという事になるが、それは別にどうでもいい。いまこの状況で言語が通じている。大事なのはその事実だけだ。
「はい。たまにではあるのですが、時折そう言った声が私の中に聞こえてくるんです」
そう言って、ファレルナはなぜ自分がここにいるのかの理由を話し始めた。
今日はこの辺りの大きな会場で信者の人々(ファレルナの信者ではない。宗教のである。だが、ファレルナを崇拝している者も決して少なくはない)と話し合いをするイベントがあったのだが、そのイベントが終了しファレルナが待ち合い室のような場所で休憩をしていると、ファレルナの頭の中に助けを求めるような声が聞こえてきたらしい。
ファレルナはその声の主を探すべく、書き置きを残し1階であったので窓から待ち合い室を抜け出した。そして声のする方に従って歩いていくと、泣いている女児を発見したらしい。ファレルナがその女児になぜ泣いているのかと理由を聞くと、女児は「お母さんとはぐれた」と言ったそうだ。ファレルナはそんな女児を助けるべく一緒にお母さんを探す事した。
幸い、女児の母親は近くを探し回っていたためすぐに見つける事が出来たようで、女児はちゃんと母親の元に帰ったらしい。女児と母親からお礼を言われたファレルナは、会場に戻ろうとしたのだが、土地勘の全くない外国という事もあり、自分のいる場所がどこなのか分からなくなった。
そんな時影人を見つけたので、ファレルナは影人に話しかけてきたというわけらしい。
「・・・・・・・・・・・・・・聖女サマ、1つだけ質問していいか?」
「はい、何でしょう?」
とりあえずファレルナが今ここにいる理由は分かった。その上で影人はファレルナにこう質問した。
「・・・・・・・要するに、聖女サマは無断で抜け出してきたって事だよな。という事はだ、今ごろえげつないくらい騒ぎになってるんじゃないか?」
「そうでしょうか? ちゃんと『すぐに戻ります』という書き置きを残しておきましたので、大丈夫だと思いますよ?」
「大丈夫なわけないでしょうよ・・・・・・・・・・・・・」
心の底から影人はため息を吐いた。この少女は自分が何をしたか分かっているのだろうか。国賓が一時でも失踪したとなれば、国際問題に発展する事は間違いない。別に影人は政府の人間ではないが、それくらいは分かる。




