第347話 聖女来日2(3)
「どこって・・・・・いや、警備も付けずに何で君がこんな場所に、違う、今はそんな事よりも・・・・・・・・」
目の前の現実に混乱した影人は、思わず手に持っていたペットボトルを地面に落とした。
「まあ、落とされましたよ。はい、お兄さん」
混乱している影人をよそに、ファレルナは手を口元に寄せて驚いたような表情を浮かべた。そして影人の落としたペットボトルを拾い、影人にペットボトルを差し出して来た。
「ああ、ありがとう・・・・・・・・・・・いや、やっぱりちょっと待て! 本当に現実かよ!?」
ファレルナからペットボトルを受け取った影人はハッとした表情になり、自問自答するようにそう叫んだ。とりあえず自分の右手の手のひらで頭を打ってみる。痛い。普通に痛い。ということは、どうやら影人がおかしくなったのではなく、やはり目の前にいる少女は本物という事になる。
「大丈夫ですかお兄さん? いきなりご自分をお殴りになるなんて、そんな事はいけませんよ?」
「大丈夫、大丈夫だ! ちょっと混乱してて、ようやくいま現実だと理解しただけだ! だから気にしないでくれ!」
キョトンとした顔でそう言ったファレルナに、影人はちぎれんばかりに手を振りながらそう言った。流石に『聖女』におかしい人扱いされるのは社会的に色々とまずい気がした。
『ぷっ・・・・・・・ははははははははははははっ! 影人、やっぱお前最高だぜ! まさかマジで1位の光導姫と会うとはな! くくくっ、笑いが止まんねえ!』
影人がファレルナに必死の弁明のようなものを行っていると、影人の脳内に爆笑したような声が響いた。ソレイユの声ではない。イヴだ。
(てめえイヴ! 笑い過ぎだろ!? こっちはありえん事態が起きて必死だってのによ!)
イヴの笑い声を聞きながら、影人は内心そう叫んだ。どうやら、肉声に出さなかった理性は残っていたようだと、影人は自分で自分を褒めたくなった。
『はははっ、知るかよ。お前があたふたしてんのが俺は楽しいんだ。いい気味だぜ』
(後で覚えてろよお前・・・・・・・!)
小馬鹿にしたようなイヴの言葉に、影人は恨み言を内心で呟いた。この恨み晴らさでおくべきか。
「お兄さん、どこか具合が悪いのですか? いきなりお黙りになられましたが・・・・・・・」
「っ・・・・・いや、体調は別に悪くない。いたって普通だ。急に黙ったのは、まあ色々とな」
心配するような声音で影人に語りかけてきたファレルナに、影人はようやく普段通りの声でそう答えた。自分にしては落ち着くのに時間がかかった気がしたのは、きっと気のせいではない。
「ところで、あんたの・・・・・・いやあんたはさすがに失礼か。聖女サマの質問は、ここはどこかってものだったよな。すまないが全く話が見えてこないんだが・・・・・・・そもそも、なんで聖女サマは知らないはずの場所にいるんだ?」
「お兄さん、聖女などとは呼ばずに、私のことは気軽にルーナと呼んでください。それについては、話せば少し長くなるのですが・・・・・・一言で言うなら、助けを求める声が聞こえたんです」
「助けを求める声・・・・・・・?」




