第336話 聖女来日 前日(3)
ちなみに影人は、ソレイユの『聖女』に対する「あの子」呼びに違和感を覚えた。影人が『聖女』の事を「あの子」と呼んだのは、単に『聖女』が自分より年下であるからだ。面識があってそう呼んでいるのではない。
だが、ソレイユの『聖女』に対する「あの子」呼びはそれとは違う気がする。今の「あの子」呼びは、まるで『聖女』と直接面識があるかのような・・・・・・・
(まあ、それも追々わかるか・・・・・・・)
影人は自分の内に生まれた疑問を一旦置いておくと、ソレイユにその理由を教えた。
「前置きしとくがこれは完全に俺の主観だし、俺は別に『聖女』が嫌いって訳じゃない。ただ苦手なだけだ。そこは勘違いすんなよ」
言葉通りそう前置きして影人は言葉を続けた。
「お前が『聖女』の事をどこまで知ってるか知らないが、あの子はたぶん完全に善人だ。しかも裏表がないな。まあ、俺もテレビで見た印象や情報からしか『聖女』の事を知らないから、本当のところはどうか分からない。でも、世間一般の奴らと同じように俺はそう感じた」
「・・・・・・・あの、なぜあなたはそう感じたのに『聖女』の事が苦手なのですか? はっきり言って、なぜその感想から苦手という感情が芽生えたのか不思議なんですが」
「話は最後まで聞け。これから話すんだからよ」
難しそうに首を傾げたソレイユに1つため息を吐いて話を再開する。
「ソレイユ、お前の方が長生きだから分かってると思うが、基本的に人間は裏表のある生き物だ。それはもちろん俺にもある。というかそれが普通だ。だが、『聖女』にはそれがない。裏表のない完全な善人。・・・・・・・・俺はな、そういった人間がどうにも苦手なんだよ。別に性善説も性悪説を支持するわけじゃないが、人間ってのは良い面もありゃ悪い面もある。それがない、良い面だけの人間ってのは、言い方は悪いが歪んでんだろ」
影人は自分が『聖女』が苦手である理由を語り終えた。まあ、最初に前置きしたようにこれは完全に影人の主観なわけだが、これから絶対に『聖女』と関わる事がないであろう影人のこの主観が覆る事はないように思える。
良くも悪くも、人間とは主観の生き物であり、完全に客観視の出来ない生き物だからだ。
「・・・・・・・何というか、すれている考え方というか、捻くれている考え方というか、あなたらしい考え方というか・・・・・・・・・・」
影人の理由を聞いたソレイユは、呆れてはいないがどこか哀れそうな表情を浮かべた。いや、別にソレイユは影人を馬鹿にしているのではない。確かに影人の考え方は分からなくもない。というか、見方によっては影人の意見は核心をついているかもしれない。
(ただ普通この年代の人間がする考え方ではないと思うのですが・・・・・・まあ、そこは影人らしいと納得するしかありませんね)
帰城影人という少年は時折り早熟したような言動や考えを示す時がある。その考えなどが形成されてきたであろう影人の過去に興味がないわけではないが、ソレイユはそういった詮索はしない心に決めていた。




