第334話 聖女来日 前日(1)
『――さあ、お次はみなさん気になるこのニュースです! いよいよ明日、7月13日にヴァチカンの「聖女」が日本に来日します! いやー、ついに明日ですね◯◯さん!』
『そうですね。2年前の「奇跡の祝福」からその名が世界に知れ渡り、その後の慈善活動などの精力的な活動の功績、更に複数の科学的解明が不可能な「奇跡」を起こした事により、「列聖」されることが確定、つまり死後に聖人認定される事が決まっているという、今まで前例のない人物です。彼女の「聖女」という呼び名はそこから来ていることは、もはや皆様が知っておられると思います。まあ、今ではまさに「聖女」のように慈愛が溢れ、その優しさから「聖女」とも呼ばれていますが』
「・・・・・・聖女ねえ」
テレビのアナウンサーとコメンテーターの声が流れてくるテレビに目を向けながら、影人はあまり興味なさそうにそう独白した。
今日は金曜日。学校から直帰した影人は、別にやる事もなくぼうっとテレビを見ていた。別に影人はニュースが好きなわけでは無いが、明日の聖女来日というある意味での一大イベントに向けて、各放送局は大体どこもそれに関するニュースをしている。だからチャンネルを変えても意味はないというわけだ。
(・・・・・・・・明日は土曜だから、都心の方とか空港周囲はえげつなく混むだろうな。なんせ、聖女サマは日本でも大人気だからな)
聖女――厳密には『聖女』と呼ばれる若干15才の少女の事は影人でも知っていた。今テレビでも言っていたように、今から2年前の「奇跡の祝福」という出来事で彼女の名は世界に知れ渡った。
(あの時のメディア、いや世界の騒ぎようといったらえげつなかったな。当時はよく、「現代のお伽話」「殺伐とした世界を救世する始まり」とか言われて世界中が1人の少女が起こした奇跡に熱狂してたし)
ニュースから『聖女』に関する話題を影人は適当に思い出していた。今でこそ当時よりは落ち着いたが、依然『聖女』は世界中で凄まじい人気を誇っている。それは、宗教という概念があやふやと言っても過言ではない日本でも同じだ。
だからテレビでは連日『聖女』に関するニュースを行なっているし、明日『聖女』がやって来る東京とその空港は凄まじく混むだろうと予想されている。
『くくっ、おい影人。こいつがあの女神サマが言ってた「聖女」か?』
(・・・・・・・ああ、そうだ。二重の意味でややこしいが、ソレイユが言ってたのはこの女の子だ)
今テレビに映っている『聖女』の写真を、影人の目を通して見たイヴがそんな事を言ってきた。イヴの本体である黒い宝石のついたペンデュラムは、影人の制服のポケットに入っているが、イヴは影人の目と耳を通して外界の情報を取得できるので、テレビの情報が分かったというわけだ。
それよりもイヴが言っている『聖女』という呼び名の意味は、テレビで言っていたような呼び名の意味ではない。だから、影人も二重の意味でややこしいと前置きしたのだ。




