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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
333/2051

第333話 それでも少年は笑い、少女たちは前を向く(6)

「え、ちょっとしえらさん!?」

「ある人って、誰ですか!?」

「・・・・手紙を見ればわかる。私からは以上」

 驚く2人の言葉に、しえらはただそう言っただけだった。そして、しえらはグラスを黙々と磨き始めた。

「と、とりあえずアップルパイすっごく美味しそう・・・・・・・・・じゃなくて! この手紙開けてみよっか・・・・・・?」

「そ、そうね。とりあえず開けてみましょ」

 陽華などはアップルパイを見て、ほんの少しだけヨダレを垂らしている気がしなくもないが、明夜はそんな親友を見ないように、手紙を開け始めた。


『朝宮さんと月下さんへ


 この手紙をしえらさんから受け取っている時には、しえらさん特製のアップルパイも一緒にあると思います。しえらさんのアップルパイは本当に美味しくて、僕も小さい頃から落ち込んでいる時などによく食べては元気付けられてきました。2人も必ずそうなるとは思っていませんが、少しでも元気が出たら嬉しいです。

 2人は今きっと辛いと思いますが、それでも再び前を向いてくれると僕は信じています。君たちの自然と心が暖かくなるような笑顔をまた見たいです。


               香乃宮光司より』


「「・・・・・・・・・・・」」

 光司からの手紙を読んだ2人はしばし無言だった。しえらも無言なので、店内にはグラスを磨く音だけが響いている。

 そして陽華と明夜はしえらの持って来たフォークでアップルパイを一口サイズにして口に運んだ。トロッとした熱いリンゴとサクサクのパイの食感が最高で、たまらなく美味しい。

「おいっしい・・・・・・このアップルパイ最高に美味しいですしえらさん!」

「間違いなく人生で食べたアップルパイの中で1番美味しいわ・・・・・・・・・・よっ、世界一!」

「ん、ありがと。そう言ってもらえるのは嬉しい。作った甲斐があった」

 2人の言葉にしえらはぐっと右手の親指を上げた。その顔はいつもよりも口角が上がっていた。

「あー・・・・・・・・・・・・私って単純だなー。美味しいもの食べただけで、気持ちがちょっと明るくなった。それに分かってたけど、私たちは本当に周りの人に恵まれてる」

「陽華に同意。私たち人間は感情にいい意味でも悪い意味でも素直だわ。私も気持ちがちょっと晴れた。・・・・・・ねえ、陽華。こうやって寄り添ってくれるのはきっと香乃宮くんだけじゃないわ。たぶんアイティレさんも、風音さんも私たちに寄り添おうと思ってくれていると思うの。思い上がりじゃなければね」

 陽華と明夜はお互いの顔を見つめ合いながら、ふっと笑みを浮かべた。その笑みは最近のどこか暗い笑みではなく、2人本来の明るさを感じさせるような笑みだった。

「そうだね、明夜。・・・・・・・・・私、決めた。まだスプリガンの言った事から完全に立ち直ったわけじゃない。でも、もう無闇に落ち込む事はやめる。そして、またスプリガンに会ったら聞くんだ。あなたのあの言葉は本当に本心なのかって。やっぱり、私にはどうしてもあの人が悪い人には思えないから」

「いいじゃない、聞いてやりましょうよ。そこでまた冷たい言葉を聞いて、私たちは落ち込むかもしれないけど、その時はその時よ。また落ち込めばいいわ。そして何度だって立ち上がってやればいいのよ」

 明夜が拳を陽華の前に突き出す。そんな明夜の仕草に陽華はくすりと笑いながらも、陽華は自分の右の拳をコツンと明夜の拳にぶつけた。

「でも、とりあえず今はこの絶品アップルパイ食べよ! こんど香乃宮くんにお礼言わなくっちゃね!」

「代金を払うって言うのは流石に無粋だし、今度なにかお菓子でも作って持っていきましょ。――よし、話し合い終わり! さあ、陽華食べるわよ!」

 明夜がパンと手を叩いた。その仕草はまるで、今までの暗い雰囲気などを断ち切るような意味合いが感じられた。

「うん! 本当すっごく美味しいよこのアップルパイ! えへへ、今度また来た時に絶対また頼もうっと」

「それはいいけど、食べすぎないでよ陽華。半分こだからね」

「わ、分かってるよ明夜〜」

 円形のアップルパイに舌鼓を打ちながら、再び前を向いた少女たちの明るい声が店内に響いた。

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