第331話 それでも少年は笑い、少女たちは前を向く(4)
「・・・・・・・・・・・あなたはやっぱり、どんな状況でも強気に笑うんですね」
先ほどの影人の強気な笑みを思い出しながら、ソレイユは改めて影人のことを頼もしく思うのだった。
「あ、すみませんしえらさん。紅茶を2つお願いします」
「ん、分かった」
どこか無理をしたような明るい声で注文をした陽華に、喫茶店『しえら』の店主、しえらはいつも通り抑揚のない声で了解の言葉を返した。
「・・・・・・・・・本来なら、今日来る予定はなかったのにね」
「そうね・・・・・・・・でもアイティレさんの判断は正しいわ。あれ以上私たちが戦っても、意味はなかったから。だから私たちが急に暇になったのは仕方のないことよ」
暗い声でお互いにポツリポツリと言葉を呟く陽華と明夜。2人は模擬戦の修練がいつも以上に早く終わった事と、この後の予定がなかったこともあり、気がつけば喫茶店『しえら』に足を運んでいた。
「はあー・・・・・・・どうしよう明夜。このままじゃ私たちダメだよね?」
「もちろんね。・・・・・・・だけど、私たちは人間よ。ダメと分かっている事でも感情が納得しない。だから、やっぱりすぐには立ち直れないわ」
紅茶が運ばれてくるまでの待ち時間の間、2人は沈んだような声でそんな事を話し合う。
「・・・・・・・やっぱりショックだったな。スプリガンからああ言われたのは」
「本当、今まで私たちを助けてくれていた人からああ言われたのは・・・・・・・・・キツいわよ」
陽華は天井を仰ぎ、明夜はテーブルを見つめた。対照的な動作ではあるが、2人の今の気持ちは同じだ。
(・・・・・・・・あの2人、今日は何だか暗い。いつも元気いっぱいだから、何だか違和感)
そんな陽華と明夜の様子をカウンター内から見ていたしえらはそんな事を思った。ラルバと光司の紹介から、この店の常連と化している陽華と明夜は、もはやしえらと顔見知りであり、2人の様子の違いくらいはしえらにも分かるのだ。
(・・・・・・もしかして光司は2人の様子を知っていたから、こんな事を私に頼んだ? だとしたら、あの子はやっぱりすごい気の利いた子だ)
紅茶の用意の他にもある準備をしながら、しえらはチラリとキッチンに置いている手紙を見た。あの手紙は光司から預かったもので、「朝宮さんと月下さんが来たら、この手紙とアレを出してあげてください」と言われたので、しえらは2人が店内に入ってきた時から手紙を用意していたのだ。
「・・・・・・・・・うん。私も腕によりをかけてアレを作ろう」
陽華と明夜が沈んでいるのは、しえらとしても何だか嫌だった。だから、しえらは2人の笑顔が見れるようにボソリとそう呟いて気合いを入れた。




