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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
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第33話 沈んでいる時こそ(1)

「・・・・・・・まずいな」

 帰城影人は焦っていた。

 時刻は午前8時26分。朝寝坊をかました影人は通学路を猛然と駆けていた。昨日、暇だから通話しながらゲームをしようとバカな友人に誘われ、ついつい午前4時くらいまでゲームをしていたらいつの間にか眠ってしまっていた。いわゆる寝落ちというやつだ。そして気がつくと時刻は朝の8時23分であった。

 マッハでつけっぱなしにしていたゲームを消して、2分で着替えると影人は朝食を食べずに自宅を飛び出した。

 いくら影人の自宅が風洛高校から近いといっても流石に7分ほどで、着くのは非常に難しい。それは例え全力ダッシュをしても変わらない。

 しかしやはり遅刻はしたくないというのが、人間の常。それに影人は遅刻をしたくなかった。

 なぜなら遅刻すれば、ホームルームの真っ只中。そこに入って行けば、嫌でも注目を浴びてしまう。影人は人から注目されるのがすこぶる嫌いだ。特に理由はないが、それが帰城影人という人間だった。

(・・・・・あと少し、行けるか?)

 鞄が邪魔だと心の底から思いながら、影人はひたすらに駆ける。今ちょうど、角を曲がったところで、風洛高校が見えてきた。普段なら風洛の名物コンビや他の生徒なども影人のように全力疾走しているはずなのに、今日に至っては影人以外に他に生徒の姿は見えない。

 ちくしょう何で今日に限って誰もいないんだ、と心の中で毒づきつつヘロヘロになって影人は風洛高校を目指す。当たり前だが、この見た目陰キャ野郎は帰宅部のもやしなので体力などあろうはずがない。ゆえに今ものすごく横っ腹が痛い。

 そして、正門まであと25メートルといったところでチャイムが鳴り響いた。

「クソ・・・・! だが、まだだ・・・・・・!」

 チャイムが鳴り終わり、体育教師上田勝雄が元気よく門を閉めようとする。お前お見合い失敗したのに何でそんなに元気なんだと思う影人。影人は知るよしもないが、生徒への小さな嫌がらせが趣味、いや生きがいの上田勝雄は今日は遅刻してくる生徒がいないのではないかと心配していた。しかし、やっと魚もとい影人がかかったので上田勝雄は機嫌が良くなったのである。

「よーし、門閉めるぞー!」

 そして無情にも閉じられようとする正門。影人と正門までの距離は残り約10メートルほど。遅刻は確定かと思われたが、影人はまだ諦めてはいなかった。

「俺を・・・・ナメるな!」

 全ての力を出し切り、影人は加速をかける。これならギリギリ通り抜けられる、そう影人は確信した。

(勝った・・・・・・!)

 しかし、事態はそうはならなかった。

「ふんぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 上田勝雄がその筋肉に力をこめ、門を恐ろしい速度で閉ざしたからだ。よって、影人はあと一歩というところで閉め出された。

「な・・・・・!」

 この筋肉ゴリラ野郎と、影人は心の中から笑顔で門を閉めた上田勝雄を呪う。上田勝雄はなんとか生徒を1人遅刻にすることができ、とても爽やかな気分になった。そう例えば元旦の朝に新品のパンツをはいた時のように爽やかな気分に。

「おしかったな! さて、組と名前を言いなさい!」

 門の内側からそう語りかけてきた上田勝雄に、影人は渋々その質問に答えた。

「・・・・・・・2年7組、帰城影人です」

 これにて、朝のしょうもない出来事は幕を閉じた。






「・・・・・・くそ、あのゴリラ閉めるの速すぎなんだよ」

 4時間目終了の鐘の音が鳴り響き、風洛高校に昼休みの時間が訪れる。影人はそう毒づきながら教室を出た。両手をブレザーのポケットに突っ込みながら目指すのは、学食・購買フロアだ。

 今日は本当に急いで家を出たため、弁当はない。普段は弁当派と言っているが、最近どうも怪しくなってきた影人である。

 学食・購買フロアに移動した影人はまず学食か購買かで悩んだ。永遠とも一瞬ともいえる逡巡の末、影人は学食を選択した。

 食券機の前に移動し、財布を開く。今日は朝飯も食べてはいないため、非常に腹が空いている。ゆえに今日はたらふく食おうと思っていたのだが、そこで事件が発生した。

「っ・・・・・! まじかよ・・・・・」

 開けてびっくり。なんと財布には300円しか入っていなかったのである。これでは学食で最も安いかけそばしか食べられない。

「ふんだり蹴ったりだ・・・・・」

 仕方なく影人はかけそばの食券を1枚購入する。今朝の遅刻といい、今日は本当に散々だ。

 しかし、よくよく考えなくともこれらのことは全てこの前髪野郎の自業自得である。まず、遅刻したのは完全にこいつがゲームを朝方までしていたからだし、金欠なのはこいつが金を使いすぎたからだ。

 そんなことを棚に上げつつ無自覚なクズ野郎はかけそばを受け取り、セルフサービスの水を汲む。

 そしてキョロキョロと辺りを見回し、空いている席を探す。ちょうど1つだけ空いている席があったので影人はそこに掛けた。

「さて、いただくか・・・・・」

 割り箸を割って、いただきますをしてさて食べようとしたところで、隣の女子生徒たちの話し声が影人の耳に入ってきた。

「そういえば、最近あの名物コンビ大人しいよね」

「ああ、朝宮さんと月下さんのこと? そう言われてみれば確かにね」

「・・・・・・」影人はその話をそばを啜りながら、何とはなしに耳を傾ける。

「そうそう。私、あの2人と同じクラスじゃん? ちょっと前まではいつも通り、元気すぎるほど元気だったし、でも最近は何か元気がないっていうか・・・・なんか暗いような気がするんだよねー」

「へー、何かあの2人が元気じゃないと、寂しいっていうか自分のことじゃないのに調子狂っちゃう気がする」

「あー、わかる」

 隣の女子生徒たち、どうやら自分と同じ2年のようだが、話を聞きながらそばを啜っていた影人は、そばを食べ終わり汁を飲む。そして、陽華と明夜のことについて思考する。

(あの2人に元気がないか・・・・・まあ、理由は推して知るべしだな)

 おそらくだが、フェリート戦が関係しているのではないかと影人は考えた。まあ、あの2人も思春期の女子高生だ。そのほかの悩みの1つや2つがあるだろう。もしかしたらそっちの方が原因かもしれないが。

「・・・・・ごちそうさまでした」

 影人は食べ終えた器を食器棚に返却すると、学食・購買フロアを後にした。

(まあ、そういった問題は俺の専門外だ。なんとか自分たちで解決するしかねえぜ)

 少しドライに陽華と明夜のことを考えながら影人は1人昼休みの喧噪の中に紛れていった。

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