第329話 それでも少年は笑い、少女たちは前を向く(2)
問題は、その攻撃などによって影人の行動が制限されるという事だ。影人は当然ではあるが、レイゼロールサイドからは敵認定を受けている。むろんレイゼロールサイドは、スプリガンを攻撃してくる。そこに本来は味方である光導姫や守護者からも攻撃を受ければ、いくら影人といえども、その行動を制限されてしまう。
行動の制限によってどのような危険性があるのかというと、例えば助けられたはずの光導姫や守護者を助けられなかったり、逆に影人が光導姫や守護者の攻撃によって受けなかったはずのダメージを受ける、といったようなものが挙げられる。
(それにここで影人が敵認定されてしまえば、スプリガンを信じている陽華と明夜の精神状態も不安定になってしまう。あの子たちはまだ新人ではありますが、レイゼロールを浄化するための希望。そんな子たちの精神状態が不安定になってしまう事は避けたい)
不安定といえば、今の陽華と明夜の精神状態も充分に不安定だ。むろん、ソレイユもその事は知っている。だが、彼女たちはいずれまた前を向くだろうとソレイユは考えていた。あの2人の心の強さと明るさをソレイユは知っている。
しかし、ここでスプリガンが敵認定をされてしまってはその機会が大幅に遅れてしまうだろう。その事は避けなければならない。
(ですが、私も強固な反対の立場は今回は取れない。さすがにこの状況でラルバの意見に反対し続けてしまえば、私はラルバに怪しまれる・・・・・・・・全く、結構な大ピンチですね。思わず影人を恨んでしまいそうです)
別にソレイユは本気で影人に対して恨みを抱いているのではない。影人にも言ったように、ソレイユも影人のあの発言は必要なものであったと考えている。あの発言によって、スプリガンの表向きの立場は修正され補強されたが、そのデメリットの1つが今のラルバだ。初めからスプリガンを危険と考えていた守護者の神に、敵であるという材料と証拠を与えてしまった。
(・・・・・・・・・・・・この状況で最もベストな選択は今のところコレしかありませんか)
思考を高速化していたソレイユは、頭の中に1つの結論を思いついた。正直、苦肉の策ではあるが今はこれくらいしか思いつかない。
「・・・・・・・・ラルバ、あなたの言い分は最もです。同じ責任ある神としてあなたの考えは理解できる。ですが、私の意見もまた筋は通っているはずです」
「それは・・・・・・確かにそうだけど、今回に限っては俺は自分の意見は曲げないよ。例え君に何か言われてもね、ソレイユ」
ソレイユの言葉にラルバも少しは理解を示したが、やはり意見を変えようとは考えていないようだ。
「ええ、それは分かっています。そこで1つ提案があるのです」
「提案・・・・・・・・?」
その言葉にラルバが疑問から眉を潜めた。いったいソレイユにはどのような提案があるというのか。
「はい。私の提案、それは――」
ソレイユは自身の提案をラルバに伝えた。
「――というわけで、あなたを敵とするか否かは次の光導会議と守護会議の各ランキング10位の意見を聞いてから、という事になりました。光導会議と守護会議が開かれるのは例年通りでは、7月中、つまり今月中ですが、今年は色々とイレギュラーが多いため、8月に開催という運びになりました。ラルバもその条件ならと、渋々受け入れました。・・・・・・・はあー、だいぶ頑張りましたよ。結果的には時間稼ぎ感は否めませんけど、これでまだしばらくは大丈夫なはずです」
「ほーん・・・・・・そうかい」
疲れたような顔で先程のラルバとの会議の結果を話したソレイユに、影人は全く興味なさそうにそう相槌を打った。ぶっちゃけってしまえば、影人はさっさと帰って家でだらけたかった。




