第328話 それでも少年は笑い、少女たちは前を向く(1)
「・・・・・・・・・ラルバ、あなたの言っている事は理解できます。私もスプリガンのあの言葉を聞いていた身です。ですが、あなたは少し急ぎすぎている気がします」
ラルバの発言にソレイユは一定の理解を示しながらも、ラルバの提案に待ったを掛けた。
「確かにスプリガンのあの発言は、私たちの敵となると言った事と同義に思えます。ですが、彼は自分の目的の邪魔にならない限りと言いました。つまり、スプリガンが敵に回るのは場合によってはということです。ですから、あなたのその提案に私は反対です」
「なぜだいソレイユ? 奴は自分の目的も何も明かさずに一方的にあんな事を言ってきたんだぞ。奴の発言を聞いたなら分かるだろ。スプリガンは俺たちと馴れ合う気はないし、敵になる可能性もあると明言してるんだ。なら、早いうちからスプリガンを敵として全ての光導姫と守護者に伝えた方が、いいんじゃないか?」
ソレイユの反論に、だがラルバも自分の意見を曲げる事なくそう言葉を返した。どうやらラルバは意見を変えそうにないとソレイユは思った。
(まずいですね・・・・・・・・・ラルバの意見は前とは違って別段過激でもない。なぜなら、この議題の主役とも言うべきスプリガンが、自らあんな発言をしたから。闇の力を扱い、そのような危険とも取れる発言をした者を敵と確定するのは、神という責任ある立場ならむしろ当然ともいえる判断です)
そう。ソレイユとラルバは光導姫と守護者という、命の危険の伴う仕事に命令を下す責任ある立場なのだ。であるならば、戦いに関わるイレギュラーを出来るだけ無くそうとするのは、何ら間違った判断ではない。そして、そのイレギュラーたる人物が敵になる可能性があると明言したのならば、尚更だ。
ゆえに、今回はソレイユもそれ程強くラルバに反対する事は難しいのだ。
(さて、どうしましょうか。今このタイミングで影人が全ての光導姫と守護者の敵になるのはまだ早すぎる。本人はあの性格ですから別に気にはしない、どころか「上等だ」とか言いそうですけど、私としてはまだ影人に今までの立場で活躍してもらいたい)
ソレイユとしては、スプリガンが光導姫・守護者から敵認定をされるといった出来事は避けたい。そうなれば、影人は守り助けるべき対象の光導姫と守護者からも攻撃を受けてしまうからだ。今までは、『提督』という例外こそいたものの、基本的に光導姫と守護者はスプリガンを攻撃しなかった。それは、スプリガンが敵か味方か分からなかったからだ。
だが敵認定をされてしまえば、スプリガンは光導姫や守護者から攻撃されるだろう。別にソレイユは影人が光導姫や守護者に負けるとは思っていない。影人の持つ力は、光導姫や守護者とは比べものにならない力だし、帰城影人という少年本人も戦いにおいては恐ろしい程に冷静で的確な判断を下す。だから、ソレイユはそういった事は気にしていなかった。




