第323話 迫る会議、神々の会合(1)
「――やめだ。2人とも今日の模擬戦はここまでとする。・・・・・・理由は分かっているな」
「「っ・・・・・はい」」
変身したアイティレの言葉を聞いた陽華と明夜は、沈んだ顔でただ一言そう返した。
場所は扇陣高校の第3体育館。だが周囲の光景は体育館のものではなく、見渡す限り一面の白い光景だ。『メタモルボックス』を使い、体育館の中を模擬戦用の広い部屋に変えているためである。
今日は週末。今までは風音が陽華と明夜に稽古をつけてくれていたのだが、前回か前々回辺りからアイティレも2人に稽古をつけてくれるようになっていた。そのような事情もあり、今日はアイティレが陽華と明夜の相手をしていたというわけである。
「2人とも戦いに集中できていない。そんな状態で戦っても鍛錬の意味はない。・・・・・・・・・お前たちが集中できていない原因はだいたい分かっている。この前のスプリガンの発言のことだろう」
「「っ・・・・・・・・・・!」」
アイティレがスプリガンの名前を出した直後、陽華と明夜の顔色が明確に変わった。主に暗い顔色へと。
「スプリガンのあの宣言は、奴を信じていたお前達からすれば、ショック以外のなにものでもなかった。陽華、明夜、お前達は未だそのショックから立ち直れずにいる。その結果の1つが今の模擬戦の不甲斐なさだ」
アイティレは敢えて厳しく言葉を紡いだ。その容赦のないどこまでも正しい指摘に、2人はその顔色と同じような暗い声でこう答えた。
「・・・・・・アイティレさんの言う通りだと思います。私はスプリガンのあの冷たい言葉を聞いてから、どこか力が抜けたような、虚脱感って言うんでしょうか? とにかく全部の事に身が入らないんです」
「・・・・・・私も陽華と似たような感じ、だと思います。別に私たちは勝手にスプリガンを信用していただけなのに、彼にああ言われてから、私はずっと心のどこかが暗いんです。・・・・・・・・・ぶっちゃっけた話ですけど、たぶん今まで生きてた中でトップクラスにキツイ感じです、私」
陽華と明夜は今の自分たちの素直な本心をアイティレに吐露した。アイティレに指摘された通り、スプリガンのあの宣言のせいで2人は模擬戦にも全く集中できなかったのだ。
陽華と明夜はスプリガンから攻撃された時でも、スプリガンを信じていた。それは今まで何度も2人がスプリガンに助けられたからだ。明夜の言ったように、2人はいつからか勝手にスプリガンを信じていたのだ。彼の口から味方であると聞いた事もなかったのに。
だがこの前の戦いの時、スプリガンは初めて自分の立ち位置を宣言した。スプリガンが光導姫などを助けていたのはスプリガンの目的のため。そしてもし光導姫や守護者がスプリガンの邪魔になるようなら、敵対するといったもの。それがスプリガンの立ち位置。
つまり、場合によってはスプリガンは陽華や明夜たちと戦う事になるかもしれないという事だ。
「「・・・・・・・・」」
その事実が陽華と明夜の心をえぐる。言葉とは残酷なものだ。声に出されただけで、2人の「スプリガンを信じる」といった気持ちはガタガタになってしまった。




