第321話 夏の到来、しばしの日常3(5)
「ふふっ、せっかくならあなたと遊びながら話したいと思っちゃってね。大丈夫よ、ここからはすぐ近くだから」
夕暮れの中、美しい金髪のツインテールを揺らしながら笑みを浮かべるシェルディア。そんなシェルディアの笑みを見た影人はこんな事を思った。
(・・・・・・無邪気な笑みの方か。相変わらず、こっちの笑みの時の嬢ちゃんは「可愛い」って感じの笑顔だな。そこに嬢ちゃんの人形みたいな見た目も加われば、そりゃ変な男にも狙われるわな)
影人はまだシェルディアとそれほど付き合いはない。だが、シェルディアの笑顔の種類が2種類ある事は知っている。それが今のような「無邪気な笑み」と、歳にそぐわない様な「大人っぽい笑み」だ。前者は「可愛い」といった感じの笑みだが、後者は「妖艶」といった感じの笑みで、思わずゾクリとするような笑みである。
「着いたわ、ここよ」
「ここは・・・・・・・・・・俺が嬢ちゃんと初めて会った時に来た公園か?」
影人がそんな事を考えているうちに、どうやら目的地に辿り着いたようだ。そしてその目的地というのは、見覚えのある公園だった。
「ええ。ねえ影人、私ブランコに乗りたいから背中を押してくれる? 1人で漕ぐよりも、こういうものは補助があった方が楽しいでしょ?」
「・・・・・・・・ははっ、分かったよ。ならしっかりと押さないとな。嬢ちゃんたまに年相応なところあるよな」
「あら、いけないかしら」
「いいや、可愛いと思うぜ」
わざとらしく膨れたような顔をするシェルディアに、影人はさらりとそう返した。
「・・・・・・・・・・なんか生意気ね、今日のあなた」
「お? 照れてるのか嬢ちゃん。今日はラッキーデイだな。なんせ嬢ちゃんが照れてるところ初めて見れたし」
ほんの少し顔を赤くしたシェルディアを影人は見逃さなかった。影人のニヤニヤとした顔を見たシェルディアは、「ふん! 知らないわ!」と言ってスタスタとブランコの方に向かっていった。
「あ、待てよ嬢ちゃん! 悪かったって、ちょっとからからっただけだろ」
影人は慌ててシェルディアを追いかけた。ご機嫌斜めな感じでブランコに座っているシェルディアの元まで走った影人は、その様子を伺いながらゆっくりとシェルディアの後方へと回った。
「・・・・・・・・・しっかり私のこと押してくれたら許してあげる」
「へいへい、申し訳ございませんでしたお嬢さま。しっかりとそのお役目頂戴します」
芝居がかった口調でそう言いながら、影人はシェルディアの背中を押し始めた。その際、プラモデルはブランコの近くに置く。大体予想はついていたが押した感じ、この少女はやはり軽いようである。
「ふふふっ、温い風だけど気持ちいいわ。もう許してあげる、影人」
「どういたしまてだ。嬢ちゃんが嬉しそうにしてるのはこっちも気分がいいからな。そうら、もうちょっと強くしてやるよ・・・・・!」
「きゃっ! もう影人ったら、急に強く押されたらビックリするでしょ。でも、いいわ。もっと強く押してちょうだい」
「ははっ、もっとか。ならモヤシの俺も頑張らないとな」
夕暮れが照らす公園で、しばらく金髪の少女と前髪の長い少年の話し声、そして笑い声が世界に響いた。




