第320話 夏の到来、しばしの日常3(4)
「そういやお前もいたんだったな・・・・・・別に普通だ。いいか、イヴ。人間ってのは一面だけじゃねえんだぜ」
『は、何だよそれ。白けたぜ、じゃあな』
「ふっ・・・・・・まだまだ人間を分かってないなイヴ」
呆れたようにそう吐き捨てたイヴは、もう何も語りかけてはこなかった。そんなイヴに影人はクールな(少なくとも本人はそう思っている)笑みを浮かべてそう呟いた。
「さてプラモは買ったし、後はコロッケ買って帰るか」
ご機嫌に鼻歌を歌いながら、影人はお肉屋さんを目指した。
「うーむ、やっぱ『丸木』のコロッケは最高だな。今度また買おう」
ようやく夕暮れが空を染め始めた時間、影人はコロッケを食べ終え帰路についていた。あともう少しで自分の家であるマンションへと辿り着く。
(なんだかんだ、1人でゆっくり動けたのは久しぶりだった気がするな。またこんな日が来たら、次はあの喫茶店に行こう)
喫茶店『しえら』の事を思い出しながら歩いていると、自分が住んでいるマンションが見えてきた。後は自宅で優雅にプラモを組もうと影人が考えていると、マンションの前に見覚えのある人物が2人見えた。
「よう、嬢ちゃん。それにキルベリアさんも。どっか出かけてたのか?」
「あら、影人。そうよ、ちょっと散歩をね。そういうあなたも買い物してきたの? 何か持っているようだけど」
「あ、こんにちは影人くん・・・・・・」
とりあえずその2人の人物――自分の家の隣の部屋に住んでいるシェルディアと、その使用人、キルベリアの内、影人が仲の良いシェルディアに話しかけると、シェルディアは柔らかな笑みを浮かべてそう言ってきた。
「まあな、ちょっとした楽しみを。しっかし、嬢ちゃんも散歩好きだな。普通、嬢ちゃんくらいの年頃なら遊び盛りだろうによ」
「あなたがそれを言うかしら。――あ、そうだ影人。ちょっと付き合ってくれない? なんだかあなたと話したい気分なの。という事でキルベリア、先に戻っておいてちょうだい。鍵は持ってるでしょ」
「? まあ俺は別に構わないけどよ」
「え、シェルディア様!? そんないきなり!」
「ありがとう影人。ならあそこに行きましょう。じゃあそういう事だから、また後でねキルベリア」
戸惑っているキルベリア、もといキベリアに一方的にそう告げると、シェルディアは影人の左手を自身の右手で引いた。
「お、おい!? どこ行くんだ嬢ちゃん、家で話すんじゃなかったのか・・・・・・?」
シェルディアのどこか少し冷たい手の感触を感じながら、影人は自分の手を引くシェルディアにそう問いかけた。というか、シェルディアの引く力が尋常ではなく強いのは気のせいだろうか。




