第318話 夏の到来、しばしの日常3(2)
「いや頭なんか下げないで! 君はちゃんとしたお客さんだからさ。というか、お礼を言いたいのはむしろ私の方だよ。私が仕入れた商品を初めて買ってくれたのは君だったからね。中々売れなかったけど君が買ってくれて本当に嬉しかったし、自信も多少ついたよ。だから、ありがとう」
苦笑しながら水錫は軽く頭を下げた。そして水錫は話題を変えるように、影人にこんな質問をしてきた。
「で、今日はどんなご用件だい? またプレゼントかな? それとも前に言ってたようにプラモでも買いに来た?」
「当たりです。今日はプラモを買おうと思いまして。そんな高いやつは買えないんですけど、久しぶりに組もうと思って」
水錫の問いかけに、影人は店内の商品を見ながらそう答えた。日曜朝の特撮もののベルトや人形などがズラリと並んでいるのを見ると、童心を思い出す。
「えらい! えらいよ少年! 約束を守れるのはイイ男の証だ! くぅー惜しいなぁ! 私があと10歳若かったらほっとかなかったのに・・・・・!」
水錫はなぜか感激したように目頭を押さえた。そして、しみじみとした感じで水錫はそんな言葉を呟いた。
「は、ははっ・・・・・・・・そう言ってもらえると嬉しいようで恥ずかしいですが、ありがたいお言葉として受け取っておきます。でも、水錫さん美人ですし普通にモテるでしょう?」
水錫の急な態度の変化に若干戸惑った影人だったが、影人は水錫にそう言葉を返した。おそらく影人の目が腐っていなければ、水錫は普通に美人と呼ばれる女性の類いだ。だからこの言葉は嘘でもお世辞でも何でもなく、影人の本心であった。
「え、私がかい? ははっ、ぜーんぜん。全くもってモテた事なんてないよ。というか、少年くらいだよ? 私のこと美人なんて言ってくれたの。いやーマジで嬉しい。別に容姿の事を褒められたのも嬉しいけど、何よりもまず少年のその心遣いが嬉しいわ。へへっ、お姉さん本気で少年のこと狙っちゃおっかな?」
どこかイタズラっぽい視線を向けてくる水錫に、プラモデルのコーナーを見物していた影人は、どこか大人っぽい言い回しでこう答えた。
「水錫さん程の美人に狙われるのは嬉しいですが、やめておいた方がいいと思いますよ? 俺はまだ青臭いガキです。大人の色香を持つ水錫さんには釣り合わないでしょうから」
「・・・・・・・・・・・・・・少年さ、マジで高校生かい? 発言がめちゃくちゃ大人だぜ? というか私よりも大人っぽいかも。ちょっと自信なくしちゃうなあ・・・・・・・君、絶対モテるだろう」
「それこそないですよ。自分で言うのもなんですが、俺見た目こんなんですよ? モテるどころか今までの人生で恋人がいたこともありません。・・・・・まあだからといって、別に何の悲観もしてませんけどね」
両手をレジのカウンターにつけて自分にジト目を向けてくる女性店主に、影人は自分の顔を指差した。影人自身は普通に目も見えているし、今の見た目もまあまあ気に入っているのだが、一般論としては全く以てモテる見た目ではない。




