第316話 夏の到来、しばしの日常2(5)
「帰城くん! ・・・・・・その、ありがとう。君の意見はとても参考になったよ。君の言う通りだ、僕がこんな感じであの2人に寄り添う事なんて出来るはずがない。僕の目の前の霧は晴れたよ。だから、本当にありがとう。・・・・・・・・・・・・やっぱり、僕は君と友達になりたいな」
「・・・・・・けっ、やっぱり変わった奴だな。言っただろう、今日の事は一時の陽炎の夢だってな。後、その申し出は再度断るぜ」
チラリと後方を振り返った影人は、いつも通りの爽やかな光司の笑顔を見た。その笑顔を見た影人は「これで香乃宮の噂は消えそうだな」と思った。どうやら少なからず自分は光司を助けてしまったようだ。
(何やってんだかな俺は・・・・・・・)
『本当にな、らしくねえな影人。なんかあの守護者には妙に甘くねえかお前?』
「・・・・・・ふん。気のせいだろ」
イヴがからかうようにそんな事を言ってくる。影人はボソリとイヴにそう返すと、トレーを返して購買・学食スペースを後にした。
「・・・・・・・・・・・帰城くん。やっぱり僕は君を嫌いになれないよ。だって君は・・・・・・いい人だから」
後に残された光司の呟きが賑やかな喧騒の中に溶けてゆく。光司は晴れたような表情で冷めてしまったハンバーグにナイフを入れた。
「悪い影人! 今日クラスの女子に誘われちゃってさ。僕はこれからカラオケに行くから今日は一緒に帰れない。だから、ぼっちの君には哀れだけど1人で帰ってくれ!」
「しばき倒すぞてめえ。確かに俺はぼっちだがそれは俺が好きでいるだけだ。お前に哀れまれる必要はねえよ。しっし、さっさと女子高生してこい」
放課後。いきなり廊下で手を合わせて果てしなく失礼な事を言う暁理に、影人は顔を顰めながらあっちに行けといった感じで手を振った。
「い、言われなくともちゃんと女子高生してくるよ! 全く君って奴は口が悪い。じゃあね影人、また明日」
「おう、楽しんでこいよ。またな」
友人間特有の軽口を叩き合い、暁理は自分のクラスへと戻っていった。影人も今日は1人なのでさっさと昇降口へと向かう事にした。
「・・・・・・せっかくの1人の放課後だ。帰りにどっか寄って行くか」
頭の中で適当にどこに寄ろうか考えながら、1人の前髪の長い高校生はその口角を少しだけ上げた。




