第314話 夏の到来、しばしの日常2(3)
「むしろ僕が隣にいる事で、帰城くんの気分を害していないかと思ってね。多分だけど、君は僕のことが嫌いだろ? ああ、責めてるわけじゃないんだ。僕にだって嫌いというか苦手な人はいるよ。ただ、帰城くんの場合それが僕であったというだけ。だから、出来れば席を移動した方がいいかなと悩んでたんだ」
(こいつマジもんの聖人じゃねえよな? やめてくれ、俺のライフはもうゼロだ。これ以上は罪悪感で吐血しちまう)
要するに光司は最初に言ったように、本当に影人の迷惑にならないか心配していたのだ。だが、周囲の座席は全て埋まっており、光司もまだほとんど学食(見たところハンバーグ定食)に手をつけていない。ゆえに移動は出来なかったということだろう。
「・・・・・・・・・・・・変わった奴だな、お前。普通は俺みたいな野郎にそんな事は思わねえよ。善意丸出しで生きてたらいつか痛い目見るぜ、おぼっちゃま」
内心の心情とは真逆ともいえるようなぶっきらぼうな言葉と煽り文句を影人は光司に吐き捨てた。その影人の言葉に光司は疲れたように言葉を返した。
「ご忠告痛みいるよ、確かに君の言う通りだ。善意というものは簡単に裏切られる。・・・・・・今まで信じていた者に裏切られるというのは、いったいどんな気持ちなのかな」
(この言葉が指してるのは・・・・・・・・・あいつらの事か)
ひどく真面目な顔で、少し怖いくらいの厳しい目をする光司。その目で分かる。光司がいったい誰の事を思い出しているのか。
(香乃宮の今の目はスプリガンに向けられるものと一緒だ。そして信じていた者に裏切られた奴ってのは、朝宮と月下のことだな)
ソレイユからしばしば影人は、あの2人はスプリガンの事を信じていると聞いていた。だからあの敵対宣言で最もショックを受けたのは陽華と明夜だ。それは自惚れなどではなく、生徒の噂になるような雰囲気の変化にも表れている。
(はっ、どうだっていい。俺はそれを覚悟であの宣言をしたんだ。どうせ香乃宮は優しいからな。あいつらのメンタルのケアはこいつが勝手にしてくれるだろ)
どこか言い訳をするように影人は内心そう吐き捨てた。今朝もついさっきも思ったはずだ。今回は自分は何もしないと。
「あ・・・・・・ごめんよ。変な事を言って。帰城くんにするような話じゃなかったね。なぜだろう、僕は普通こんな話はしないはずなんだけど・・・・・・・・君にはポロッと話してしまうみたいだ」
光司はハッとしたように、その硬い表情を崩し苦笑してみせた。どうやら先ほどの呟きは予定外の言葉であったようだ。




