第313話 夏の到来、しばしの日常2(2)
(どうする? すぐにうどん取って今からでも席を変えるか? いや他の席はもう全部埋まってる。となると・・・・・・・・・・はあー、自分からあんなこと言った手前、あいつの隣に座るのは気が進まねえが仕方ねえか)
離れた場所からおにぎりと水を持ちながら、影人は1人悩んでいた。ぶっちゃけ、出来ることならマジで座りたくないが腹も減っていたので、もう座るしかなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
影人は無言で光司の隣の席へと近づいていた。そしておにぎりと水を自分のトレーに置くと、イスを引いて光司の横へと座った。
「っ!? き、帰城くん・・・・・・・・・?」
「・・・・・・・気にするな。俺が取ってた席の隣にたまたまお前が座った。ただそれだけだ」
影人を見て驚く光司に影人はぶっきらぼうにそう言った。帰城影人として光司と言葉を交わすのは、おそらく1、2ヶ月ぶりくらいだろう。そしてそれ以降は光司を無視し、すだちを絞り割り箸を割った。
「・・・・・いただきます」
手を合わせて影人はうどんを啜った。すだちの酸味と冷たいうどんが食欲を掻き立てる。影人はうどんを啜りながら、未だに自分の事をチラチラと見てくる光司に仕方なく言葉を投げかけた。
「・・・・・・・・・・・・・俺に何か用か」
「い、いや用とかそういうわけではないんだ。た、ただ・・・・・」
影人の言葉に光司は目に見えてたじろいだ。自分には2度と関わるなと言った手前であるが、このままではどうにも気持ちが悪いので、影人はもう少し話してやる事にした。
「ただ、なんだ? 安心しろよ、俺はうどんとおにぎりだけだからすぐに席を立つ。俺がいたんじゃ、せっかくの飯も美味く食えないだろうからな」
「ち、違う! そんな事は別に思っていないよ! 僕はただ君の迷惑になるんじゃないかと思って・・・・・」
「・・・・・・・・・・は? どういうことだよ? 何でお前がそんな事を思う必要がある? 俺は一方的にお前の善意を否定した奴だぞ。そんな奴のことを嫌いこそすれ、お前が気を使うのはおかしいだろ」
光司のその意外過ぎる言葉に、影人は思わず混乱した。全く以って光司の言葉の意味が理解できない。
「それは誤解だよ。僕は君の事を嫌ってなんかいない。確かに僕は君に『2度と関わるな』と言われたし、友人になる事も断られた。でも、それは君の意志だ。その君の意志を僕が不満だと思ったなら、僕はとてつもなく傲慢な人間になってしまう。僕は出来るだけそうはなりたくはないんだ。だから、君の事を嫌ってなんかいないよ。・・・・・・・まあ、ショックを受けなかったといえば嘘になるけどね」
光司は真面目な口調で影人にそう言った。しかし最後の付け加えた言葉の部分だけは苦笑していた。
(こいつ・・・・・・・・・・・マジで言ってんのか?)
なんだこの男は。いったいどこまで聖人なのだろうか。見た目イケメンのくせに、やはりいい奴すぎる。
(うわ・・・・・・・俺こんないい奴に変わらず冷たく当たらなきゃならねえのか。ふだん罪悪感なんてもんとは無縁だが、今回はさすがにそいつを感じるぜ)
影人は本当に珍しく、光司に対して申し訳ないといった気持ちと罪悪感を覚えた。影人はぶっきらぼうで捻くれてはいるが、一応は道徳観を持った人間である。ゆえに、眩しく真っ直ぐすぎる光司の言葉は影人の精神に少なからずダメージを与えた。




