第312話 夏の到来、しばしの日常2(1)
担任に夏休みの面倒ごとを押し付けられた影人は、沈んだ気分で1階の購買・学食フロアへと向かった。最近は普通に弁当続きだったので、たまには学食が食べたいと思い今日は朝から学食と決めていたのだ。
「さて、今日のメニューはと・・・・・・・」
影人は本日の学食のメニューに目を通した。豚しゃぶ定食にハンバーグ定食。その他にも様々なメニューが書かれている。
「うーむ、悩むところだが・・・・・・本格的に暑くなって来たからな、ここはいっちょサッパリさせようぜ。じゃなくて、サッパリさせるか」
沈んだ気分を変えるためにも影人はそう呟きながら、すだちうどんの食券を購入した。後は適当に購買でおにぎりでも買えば丁度いいだろう。
「あ、見て見て! 香乃宮くんだよ!」
「本当だ、今日もカッコいい・・・・・・・・でも、やっぱり噂通りちょっと表情硬い感じだね」
すだちうどんを受け取った辺りで影人はそんな声を聞いた。そして何とは無しに周囲を軽く見渡すと、学食のメニュー表の前にただずんでいる光司を発見した。聞こえて来た話の通り光司の表情はどこか硬かった。
(・・・・・・自惚れじゃなければ、あいつがあんな雰囲気になったのは俺の敵対宣言のせいだな。まあ、俺は何も気にしてないが)
元々光司はスプリガンに対して敵対的であった。だから光司からすれば影人の敵対宣言はそれ程衝撃的ではなかったはずだ。おそらくだが、光司はスプリガンの敵対宣言によりショックを受けた人物――陽華と明夜の事について何か考えているのではないだろうか。
(香乃宮は優しいからな、さもありなんだ。あいつらについては・・・・・・・・人を信じすぎるところがあったからいい勉強になっただろう。前にも思ったが、俺の仕事はあいつらを守る事であって、精神の安定をはかることじゃない)
影人は光司を通して陽華と明夜の事を思い出したが、その思考を振り払うように光司から目を背けた。結局、前回は軽く2人の助けをしてしまったが、今回は何もしない。立ち直るはあの2人次第だ。
「空いてる席はと・・・・・・・」
なにぶんお昼休みなので人が多いし、イスもほとんど埋まっている。影人は何とか空いている席を見つけると、そこにすだちうどんを乗せたトレーを置いた。
「後はおにぎりと水だな」
影人はその席から離れて購買スペースへと足を運ぶ。購買もかなり混んでいたが、なんとか鮭のおにぎりを買う事が出来た。おにぎりを買った足でセルフの水を汲み、影人は自分がすだちうどんを置いた席へと戻った。
だが――
「げっ・・・・・・まじかよ」
影人はある事に気がついてしまった。先ほどまでは空いていた自分の席の隣が埋まっている。後ろ姿だけでも分かる。自分の席の隣に座っている人物、そこにいたのは――
「よりによって何でお前がそこに座ってるんだ。・・・・・・・・・・香乃宮」
影人が自分から2度と関わるなと言った人物、陽華と明夜の表の守護者。すなわち、香乃宮光司がそこにはいた。




