第308話 夏の到来、しばしの日常1(2)
「だって影人何かとあの2人のこと気にしてるじゃないか。まあ、君が何であの2人の事を気にしてるのかは友達のよしみで聞かないけどさ。・・・・・・・・・・・・やっぱり、ぶっちゃけどっちか好きなの?」
「友達のよしみは1秒でどこへ消えたんだよ。あと別に俺はあいつらのこと気にしてないし、好きなんてありえねえよ。こういう話は前にもして否定しただろ」
暁理の言葉にツッコミを入れながら、影人は明確にその話を否定した。いやスプリガンという立場上、影人は陽華と明夜の事を気にしないというのは不可能なので、影人の気にしていないという言葉は嘘になるのだが、まさか暁理に正直にその事を言うつもりはない。ちなみに恋愛感情云々はカケラもないので、本当のことだ。
「本当? ま、それならいいけどさ。そうだ影人、もうちょっとで夏休みだよね? せっかくだから今年の夏はどっか行かない? ほら、来年は僕らも進路上色々と忙しいだろうから。めいっぱい遊ぶなら今年しかないぜ。海とか山とかプールとかお祭りとか、ゲロ吐くまで遊びまくろう!」
「嫌だよ何でクソ暑い中ゲロ吐くまで遊ばにゃならんのだ。普通に死ぬわ」
笑顔でとても高校生らしい提案をしてくる暁理の誘いを影人は速攻で断った。影人は肉体的には若いが、精神はじじいのように枯れ果てている男である。絶対に夏休みは近場と家で過ごす方が楽しい。この考えに花◯院の魂を賭けてもいい。
「えー、いいじゃないか。花の十代が過ぎるのは一瞬だよ? ねえ、いいでしょ?」
暁理は上目遣いで両手を合わせながら影人を見つめた。普通の男子ならば間違いなく頷いてしまうであろう仕草だ。そこに普段は男子っぽい暁理のギャップ萌えの要素も加わっているため、そのお願いは最強に見えた。実際、影人たちの隣や後ろを歩いている男子や女子も、「やべえ、早川さん可愛すぎだろ」「きゃー! 早川さんのギャップ萌えたまんない! 心臓撃ち抜かれたわ!」的なことを言っていた。なんだかんだ、暁理はその格好と容姿のせいで、風洛の生徒にはよく知られているし人気の人物の1人なのだ。
「だから嫌だって言ってんだろ。そんなに遊びたきゃ他の友達誘え。お前は俺と違っていくらでもいるだろ。とにかく嫌なもんは嫌だぜ」
しかし暁理の横にいる男子は、残念ながら普通ではない。孤独を愛する面倒くさがり屋の前髪野朗は、平然と暁理の「お願い」を再び拒否した。
「なっ!? くそ、僕の魅力が足りなかったって言うのか・・・・・・・・・・た、確かに僕は君と違って友達は他にもいるけどさ。その・・・・・・・僕は影人と遊びたいんだよ。・・・・・・・分かってはくれないかい?」
それでも諦めきれない暁理は、少し顔を赤らめながら自分の本心を吐露した。暁理的にはこの前のデートの時と同じように、かなり踏み込んだ言葉なのだが、当の本人はいったいどう思っているだろうか。




