第307話 夏の到来、しばしの日常1(1)
「・・・・・・・あと1ヶ月もしないうちに夏休みか。まあ、今年の夏休みは休めるか怪しいもんだがな」
いつも通り癖である独り言をボソボソと呟きながら、影人は学校へと向かっていた。季節はもう7月に入った頃。ここからが本格的な夏の始まりだ。
(なんせ今年はスプリガンの仕事があるからな・・・・・・・例年通りのだらけにだらけまくった夏休みは無理そうだ)
軽くため息を吐きながら、影人はガリガリと頭を掻いた。影人の夏休みの過ごし方は基本的には1人で家に引きこもり、気分が向いたら周囲を散歩するといった感じだ。影人は友達が極端に少ないことと1人でいる事が好きなため、まるで世捨て人のような夏休みを今まで送ってきていた。
「――や、やあ影人! 君、相変わらず雰囲気は暗い奴だね!」
「・・・・・・・・・・朝っぱらからそうそう俺をディスってんのか暁理?」
後方から聞こえた声にそう答えながら、影人は後ろを振り向いた。ボブほどの髪の長さに影人と同じ制服にズボン。一見すると男子のようだが、彼いや彼女は女性である。そこにいたのは影人の数少ない友人、早川暁理であった。
「つーかなにキョドってんだよ。お前、前に映画観に行った時からちょっとおかしくねえか?」
「べ、べべべべ別に!? 僕はいつも通りの僕だぜ!? そんな事はないないなーい!」
「・・・・・・・・・・医者紹介してやろうか?」
「君って奴は!! 普通そんなこと乙女に言うかな!? あまりの安定の影人っぷりに僕ももう普通に怒っちゃってるし!?」
「・・・・・すまんがお前の言っている事の意味がわからん」
ついに自分の友人はイカれたのかと影人は本気で危惧したが、「はあー・・・・・・君に色々と期待した僕がバカだったよ。もう普通でいいや」といつもの暁理に戻ったので、イカれてはなさそうだ。
「そういえば聞いたかい影人? 朝宮さんと月下さんまたなんか落ち込んでるみたいなんだってさ。しかも今回は前回みたいに分かりやすくじゃなくて、無理矢理明るく振る舞ってる感じらしいよ。今度はいったいどうしたんだろうね」
暁理と共に学校に向かう流れになり、再び歩き始めると暁理がそんな話題を振ってきた。
「・・・・・・・・・・さあな。てか何でわざわざあの名物コンビの話題を俺に振ってくるんだよ」
暁理の話題に一瞬ギクリとする影人。なぜならば2人がまた落ち込んでいる理由に心当たりが大有りだからである。




