第303話 もう1人の正体不明(2)
「・・・・・・分からんぞ? もしかすれば、奴は内心心変わりしているかもしれん。『殺す方が楽だ』とな。・・・・・・・・・・・だが、やはりその可能性は低いか。そもそも何の証拠もないのだ。我々が話し合っている事は、全て憶測でしかない」
「確かにね、本当何者なのかしら。正体不明、あなたを襲ったって事は、目的はあなたを殺すことかしらね? でも、その目的もまだ確定したわけじゃない。つまり現状その目的も不明。これじゃまるで――」
シェルディアがその人物について整理する。と言っても分からない事しかないが、シェルディアはそんな怪人を1人知っている。今日初めてその実物を見た怪人の名は――
「スプリガン・・・・・・か」
シェルディアと同じような事を思ったのか、レイゼロールがその名前を口に出した。確かに、その共通事項はスプリガンと一致している。
「ええ、さしずめ『もう1人の正体不明』とでも言うべきかしら」
シェルディアがどこか面白そうな表情を浮かべる。失われていたはずの神殺しの武器。それを扱う謎の襲撃者。退屈を嫌うシェルディアからすれば、こんなに面白そうな事はない。
「ふふっ、いいじゃない。スプリガンにフェルフィズの大鎌を扱うもう1人の正体不明。最近は全く退屈しないですみそうだわ」
「ふん、やはりお前はどこか異常だな。我と同じくおよそ永遠の時を生きる永遠者よ。我は脅威こそ感じるが、お前のように面白そうとは全く思えん」
「それはまだあなたにやるべき事があり、生きるということに退屈していないからよ。あなたもいつか分かる時が来るわ。永遠の生というものは、一種の地獄よ」
レイゼロールの冷たい言葉に、シェルディアは疲れたような笑みを浮かべながらそう言った。
「・・・・・・・・・・そんなことは重々承知している。例え命を絶ちたいほどの悲しみがあっても、我らの生は続いていくのだからな」
シェルディアの言葉にどこか同意するように、レイゼロールは独白するように言葉を呟いた。レイゼロールにもシェルディアの言っていることは、実感として理解できる。レイゼロールも何度か自分の命を絶ちたいと考えたことがあるからだ。
「・・・・・・・そうね、あなたにも分かっていたのよね。――さ、暗い話はこれくらにしましょう。私はキベリア達のところに混ざってくるわ。終わったらまたキベリアを連れてここを離れるから。いいわよね?」
「・・・・・・・好きにしろ。お前の無茶苦茶ぶりには慣れている」
「ありがとう、じゃあ私はあの子たちのところに向かうわ」
そう言ってシェルディアは闇へと消えていった。この空間に1人残されたレイゼロールは、しばし物思いに耽った。
(神殺しの武器・・・・・・・・・どうしてもあなたの事を思い出してしまうな。・・・・・・・・・・待っていてくれ、きっともうすぐだから・・・・・)
どうしようもなく大切だった存在のことを思い出しながら、レイゼロールは祈りに近い決意を再び誓った。




