第302話 もう1人の正体不明(1)
「フェルフィズの大鎌・・・・・・? どういうこと? あれは行方不明になっていたんじゃないの?」
神殺しの大鎌――その名を聞いたシェルディアはその美しい眉を潜めた。非常に珍しい事ではあるが、レイゼロールの言葉を聞いてシェルディアは戸惑っていた。
「ああ、命あるモノならば全てを殺せる彼の大鎌は、いつぞやからその所在が不明になっていた。だが、謎の襲撃者はその大鎌を所持していたのだ」
シェルディアの戸惑いは最もだとばかりに、レイゼロールはもう1度その事実を伝えた。実はレイゼロールも見た本人だというのに、未だにどこか信じられずにいるのだ。
「・・・・・・・・・見間違え、ではないのよね?」
「それはありえない。お前もそうだろうが、我もあの鎌は大昔に1度見た事がある。あの忌み武器を忘れなどするものか」
そう。まだレイゼロールが幼体というべき大昔の頃、レイゼロールはとある場所に封印されていた大鎌を見たことがあった。
「忌み武器・・・・・・ええ、そうね。神殺しの武器は、あなたにとっては、特別な意味を持つものだものね」
本当に珍しく、シェルディアがその表情を沈痛なものに変える。シェルディアはレイゼロールの過去を知っている。ゆえに、神殺しの武器というキーワードを聞いて思い出される出来事は、レイゼロールと同じものであった。
「・・・・・・・・・・・まあな。とある狂った神が狂気の果てに創り出した神器、それがフェルフィズの大鎌。命あるモノならば例え神でも殺せる、そして実際に神を殺した事実があるからこそ、神殺しの武器などと呼ばれているが、今はその事は置いておく。それよりもその大鎌を持ち我に襲撃してきた人物、こいつが何者であるかの方が問題だ」
想起される過去の事を頭の中で振り払いながら、石の玉座に座る白髪の女はそんな言葉を振った。その言葉に、レイゼロールの過去を知る純粋な人外は「確かにそうね」と美しい金髪のツインテールを揺らす。
「1番気になるのはその正体ね。フェルフィズの大鎌を持っているとなると、あなたを襲ったのはもしかして神かしら?」
「それはありえないだろう。神は地上に降りれば制約に縛られる。その身体能力も普通の人間のそれと同じになる。だが、奴の身体能力は明らかに常人を凌駕していた」
「じゃあ、光導姫か守護者? いやでも男ってあなた言ってたわよね。じゃあやっぱり守護者かしら?」
「・・・・・・・・・・それも可能性は低いように思えるがな。第一に守護者は人間だ。人間がどうやって神代の時代の神器を手にする事が出来る? ・・・・・・いや、守護者の上の人物ならば、フェルフィズの大鎌を調達することは可能か? そうだ、元々あの大鎌を管轄していた一族は――」
「あの子だっていうの? でもそれはおかしくない? あの子の目的は、ソレイユと一緒であなたの浄化でしょ。あなたに限れば、浄化は殺される手段になり得ない。でもフェルフィズの大鎌であなたを襲おうとしたその人物は、あなたを殺す気でいたって事でしょう? あの大鎌ならあなたを殺せるものね。だとすれば、それはあの子の目的と矛盾しているわ」
とある人物の顔と名前がレイゼロールの脳内に過ぎる。レイゼロールの呟きにシェルディアもその人物を想起した。だが知っているからこそ、その可能性はないようにシェルディアには思えた。




