第294話 裏の策謀、その結果(1)
「――ご苦労だった、クラウン」
「いえいえ、レイゼロール様の命とあらば、ですよー」
この世界のどこか。周囲が暗闇に包まれた場所で、石の玉座に座るレイゼロールは、クラウンへと労いの言葉をかけた。その言葉に対し、クラウンは相変わらず戯けた雰囲気で軽くお辞儀を返した。
「・・・・・・冥は意識を失っているのか」
「ええ、そのようですねー。最上位闇人であり、武人でもある冥さんの意識を奪う事が出来るほどの実力と力・・・・・・・・・いやはや、恐ろしい限りですね彼は」
クラウンの横の地べたに寝かされている冥を見ながら、2人は会話を続ける。クラウンがこの場所に着いてからも、冥は依然意識を失っていた。
「彼か・・・・・・・・やはり奴は現れていたようだな」
その指示代名詞を聞いたレイゼロールは、クラウンが誰のことを言っているのかすぐに理解できた。そもそも、冥ほどの闇人の意識を奪うなどという馬鹿げたマネが出来るのは、おおよそ1人しかいない。
「っ・・・・・・・・・主よ、その事について己は主に言わねばならぬことがあります」
「・・・・・・・・殺花か、いいだろう言ってみろ」
レイゼロールがある人物について考えを巡らせていると、クラウンの隣に立っていた殺花がレイゼロールにそう話しかけた。戦場からすぐにここにやって来て、レイゼロールに謁見したため殺花の服装は軽装状態のままである。
殺花は地べたに跪き、その頭を深く垂れると悔しさと申し訳なさが混じったような声音で言葉を紡ぎ始めた。殺花の平伏の姿勢は、日本人なら誰もが知っている姿勢――いわゆる土下座と呼ばれるものだった。
「実に、実に申し訳ありません主よ! 己の実力不足のせいで、奴を、スプリガンを殺すことは出来ませんでした! 加えて光導姫にすら己は遅れを取ってしまいました! クラウンの助けがなければ己は浄化されていたでしょう! 生き恥を示し、こうして主の前にいること、心よりお詫び申し上げますッ・・・・・・!」
普段は無感情とでも言えるほどに、感情を表には出さない殺花。そんな殺花の魂の慟哭とでも言うような、半ば叫びに近い言葉がこの空間に響き渡った。殺花のその言葉を聞いていたクラウンは、「相変わらず、殺花さんはクソ真面目ですねー」と少し苦笑していた。
「・・・・・・・殺花、まずは面を上げろ」
そして、殺花の言葉を受けた張本人であるレイゼロールは、まずそう言葉を切り出した。殺花はフェリートと同じぐらいに、レイゼロールに対する忠誠心が高い。そんな殺花は人間時代の頃の文化や環境が影響したのか、時折行き過ぎたレベルの謝罪行動を取ることがある。今回のそれもまさしくそれだった。
(・・・・・・・・殺花の唯一の欠点は、自分に厳しすぎることかもしれんな)
内心そんなことを思いながら、レイゼロールは殺花に許しの言葉を与える。
「殺花、我はお前に感謝している。もちろんそこにいるクラウンにも、意識を失っている冥にもだ。お前達の陽動のおかげで、我は長年の探し物の1つを光導姫や守護者の妨害なく見つけることができた。・・・・・・・・まあ、1人よく分からない不審な者と軽く戦ったがそれだけだ」
「っ、主の探し物が・・・・・・・!?」
「ほう! それはそれは、|コングラッチュレーションズ《おめでとう》! でございますねー」
レイゼロールの「探し物が見つかった」という言葉に、殺花とクラウンがそれぞれ反応した。十闇の普段の仕事は、世界中に散らばりレイゼロールの探し物についての情報を探ることだ。ゆえに、2人にはその言葉がどれだけの意味を持つのか実感として理解できた。




