第296話 敵対宣言と気配の正体(5)
「な、何でレイゼロール様に会いに行くんですか? このタイミングでシェルディア様がレイゼロール様に会いに行く意味が分からないんですが・・・・・・・・・」
「だって仕方ないじゃない。スプリガンの気配を覚えられていたら私だってスプリガンを追っていたわ。けど、彼の気配は覚えられなかった。なら、まだレイゼロールに会いに行った方が面白いでしょう?」
シェルディアが当然ではないかと言わんばかりの口調で首を傾げる。だが、キベリアはシェルディアのその言葉の意味を理解できていなかった。
「・・・・・・あの、すみません。話が見えてこないんですが・・・・・・・・・・」
「? そう? ああ、そう言えばさっき結局説明してなかったから、分からないのも無理ないわね」
キベリアの反応に不思議そうな顔をしたシェルディアだったが、先ほどの記憶を思い出した事でキベリアの反応に合点がいった。
「ほら、さっき巨大な闇の気配を感じたでしょ? 力を封印してるあなたも感じる事ができた程の闇の気配。さっきあなたに説明しなかったけど、私あの気配に覚えがあるの」
シェルディアは月を見上げながらそう言葉を続けた。キベリアは質問を挟む事なくシェルディアの話を聞き続ける。
「あの気配はあの子の全盛期の力の一端、今では私や神々しか知らない懐かしい気配。・・・・・・・『終焉』の力を扱えていた頃のレイゼロールの気配よ」
「っ!? レイゼロール様の・・・・・・? あ、あのシェルディア様、その『終焉』の力っていったい何なんですか? 私たぶん初耳だと思うんですけど・・・・・・・・・・・・」
さらりととんでもない事を聞いたのではと感じたキベリアが、反射的にシェルディアにそう問いかけた。なんだか、シェルディアといると自分は質問ばかりしている気がするが、それは仕方がないだろうとキベリアは思う。何せ、シェルディアは十闇の最古参メンバーの1人だ。レイゼロールとの付き合いはキベリアなどよりも遥かに長い。
「・・・・・・そうね、あの子本来の力とでも言っておきましょうか。それ以上は私からは言えないわ。一応、レイゼロールの過去に関わる事だしね。ま、あなたに伝わりやすいように言うと、レイゼロールの探し物の1つがようやく見つかったという事よ。だけど、まだ全盛には程遠いでしょうね。・・・・・・あの時に散らばったカケラはまだ複数あるから」
「そう、なんですか・・・・・・・・・・」
シェルディアの言葉をキベリアは完全に理解したわけではない。結局、シェルディアは終焉の力なるものについて深くは語ってくれなかったし、あの時というのがいつなのかもキベリアには分からない。
だが、分かった事もある。それはレイゼロールが長年探していた探し物の1つが見つかったということだ。その事実を知れただけでも、キベリアはよかったと思えた。キベリアも一応レイゼロールには忠誠を誓っている身だ。その事実はキベリアにとっても吉報だった。
「・・・・・つまり話を整理すると、シェルディア様は探し物が見つかったレイゼロール様にちょっかいをかけに行くって事ですよね?」
「うーん、まあそういうことね。で、結局あなたはどうするのキベリア? 一緒に来るの? 来ないの?」
キベリアの確認に頷いたシェルディアは再びその事を聞いた。元々、これはそういう話だ。
「・・・・・・・・・・・そうですね、私もせっかくだから行こうと思います。あそこに置いてある魔導書も何冊か取りに行きたいですし」
「分かったわ。なら、さっそく行きましょうか」
話は決まったとばかりに、シェルディアは手を叩いた。するとシェルディアとその隣にいたキベリアが、シェルディアの影に沈んでいった。
――この戦いの裏で起こっていた出来事は、これからの光と闇の情勢を少なからず変えるものだった。




