第294話 敵対宣言と気配の正体(3)
俺の転移するための条件は、視界内に転移場所を収める事。とりあえず、この場にいたら面倒な事になりそうだし、一旦遠くへ転移だ)
影人が感じていた、自分以外の観察者の存在。その存在の気配を今も変わらず影人は感じていた。
本当にこの場に自分以外の観察者がいるのか、実のところ影人には分からない。もしかしたら、影人の思い違いである可能性もあるからだ。
だがもし影人の感覚が正しかった場合、この場に残るのは危険だと影人は考えていた。観察者がいるとして、その目的は影人にもわからない。しかし、もしもその目的が影人、いやスプリガンという存在であったとすれば、観察者は自分が1人になったタイミングで何かを仕掛けてくる可能性が高い。
そして、観察者の戦闘能力が未知数の今、消耗し疲れている影人が戦闘を行うリスクというものは、通常時のそれよりも高い。以上のような理由から影人は、光導姫と守護者が転移するのと同時に転移しようと考えたのだ。
(もう1つの可能性として、光導姫か守護者が目的の場合もあったから、俺もすぐには転移出来なかったがこの状況なら俺も転移は可能だ)
同時の転移ならば影人が何かを心配するような事もない。考えすぎ、用心のしすぎと人は思うかもしれないが、影人の仕事は失敗が許されない。ゆえに、このような思考は当然のものだった。
「待ってスプリガン! 私、まだあなたと話したい事がたくさん――」
「・・・・・・やはりお前は僕たちの敵だ」
地上では跳躍し空に舞ったスプリガンを見上げ、陽華や光司がそれぞれ言葉を呟いていた。陽華の言葉は半ば叫びに近かったので、影人の耳にもかろうじて届いたが、光司の低い声の呟きは影人には届かなかった。
「ふん・・・・・・・・・・しばらく、さよならな事を願うぜ」
決して、地上の光導姫や守護者には聞こえない声で影人が放った独り言は夜の空へと溶けていった。
そして、影人は適当な視界に映っている建物を転移先に決めると、自分の前方に闇色の渦のようなものを発生させた。
最後に自分を見上げる様々な感情を映した視線を見下しながら、影人は渦へと消えた。
その数秒後、計6人の光導姫と守護者も光に包まれてその場から姿を消した。
思惑、敵味方入り乱れたこの戦いは存外あっけなくその幕を閉じた。
「――あらあら、光導姫や守護者がいなくなった後にでもスプリガンと絡もうと思っていたら、彼も同時に消えちゃたわ。残念、という他ないわね」
影人と光導姫や守護者も消えた後、『世界』を解除したシェルディアは戦いの爪跡が残るこの場所を見ながら、そう呟いた。断絶された『世界』を解除した事によって、シェルディアは現実世界へと戻っていた。




