第292話 敵対宣言と気配の正体(1)
(ま、そんな事は俺には出来ねえんだがな)
――自分の邪魔になるならば、スプリガン自身が光導姫と守護者を排除する。
そんな感じの言葉を、影人は静かに敵意向きだし的な口調で宣言したが内心はいつもの影人と何ら変わっていなかった。
「「っ・・・・・・・・・!?」」
影人の冷たい言葉を聞いて、1番ショックを受けていたのはやはりと言うべきか、陽華と明夜だった。2人の顔色と表情は明確に変わっていた。
「・・・・・・・それが貴様の本心か。であれば、貴様の先ほどの言葉は宣戦布告と取ってもいいのだな」
「・・・・・・・・好きに解釈しろ。俺は誰ともなれ合うつもりはない」
苛烈とでも言うべき敵意をその赤い瞳に乗せ、アイティレはそう言葉を返してきた。こういうときに、自分にマイナスのイメージを持っている人間は扱いやすくていいと影人は思った。
「っ、待ってください! スプリガン、そもそもあなたの目的とはいったい何なんですか? なぜあなたは、私たち光導姫や守護者の前に現れるのです? 理由を聞かせてはくれませんか?」
このままでは戦いになると感じたのだろうか、風音が影人にそんなことを聞いてきた。なぜ、スプリガンが光導姫や守護者を助けたのかという理由は、影人が先ほど自分の目的に関係していると言ったので、風音はその事は聞いてこなかった。言葉の理解力が高いな、と影人は感じた。
(ったく、こういう奴の方がはるかにめんどくさいんだよな・・・・・・・・そもそも、俺に目的なんてねえし)
自分を敵と定めているアイティレはまだ扱いやすい。なぜならば、アイティレには明確な自分への敵意があるからだ。
だが、風音は違った。和平論者というわけではないのだろうが、風音はまず話を聞きたいというスタンスを示した。そこに含まれる意味合いというのは、「回避できる争いならば回避する方がよい。目的を教えてくれたら、もしかしたら戦わずに済むかもしれない」といったようなものだろう。その事を理解していた影人は、『巫女』という人物は思ってた以上に厄介な人物かもしれないと考えを改めた。
(私やあの2人を助けてくれたこの人が完全な悪人だとは、私には思えない。彼の目的次第では、もしかしたら良好な関係を築けるかもしれない)
風音の意図は影人の予想通りのものであった。陽華や明夜たちと同じように、スプリガンに危機を助けられた風音は、少しばかりスプリガンに対する考え方が、陽華と明夜寄りのものになっていた。




