第291話 勝者は(6)
(ま、単純に負けたくねえって気持ちがないって言えば嘘になるが)
内心軽く舌を突き出しながら影人はそんなことも思っていた。
「っ・・・・・・・・貴様、光臨の制限時間の事を知っていたのか」
影人の言葉を聞いたアイティレが少しその顔色を変えた。どうやら影人が知らないと思っていた弱点を知っていた事に戸惑っているようだ。
(・・・・・・・・ちょっと言葉を畳み掛けてみるか)
影人はこの場にいるメンバーのことを思い出しながら、そんなことを思った。ここにいる『提督』、『巫女』、『騎士』は最上位の実力者だ。もう1人の和装の守護者のことは影人は知らないが、この戦場にいたということは光司と同様に最上位の守護者とみるのが自然だろう。
そして影人が影から守るべき対象である陽華と明夜。ここらで自分の立ち位置を少し調整するには絶好の機会だ。
「・・・・・・・1つ言っておく。例えお前ら全員が俺と戦っても俺には勝てない。それは純然たる事実だ。俺には俺の目的がある。そこの2人や『巫女』を助けたのは俺の目的が絡んでるからだ。だからもし何かを勘違いしている奴がいるとするなら不愉快極まりない。・・・・・・・・・そしてお前達が俺の目的の障害になり得るなら、その時は――」
緊張している面々に向かって影人は、自分の目的が決して分からないような口調で言葉を紡いでいく。この言葉は光導姫と守護者全員に言っているものでもあるが、未だに自分を信じている陽華と明夜に向けた言葉でもある。
(俺の立ち位置は少しばかり光導姫と守護者に寄りすぎた。まあ何回もこの2人と光導姫とか守護者を助けてれば当然だな)
寄りすぎた立ち位置はスプリガンという存在にとっていいものではない。片方の立場に寄りすぎれば、いつか自分の正体と自分の真の立ち位置がバレるかもしれない。
だからこそ、この機会に影人は自分の表面的な立ち位置を調整しようと考えたのだ。
影人はチラリと帽子の下から陽華と明夜を見た。2人も他の者たちと同様に緊張しているような顔をしているが、どこかショックを受けたような表情も同時に浮かべていた。
(・・・・・・・・ソレイユから聞いた話じゃ、どうやらお前らは俺の事を信じてるみたいだが、その信用は俺には不要だ。だからお前らの信用をここでぶち壊させてもらうぜ)
そして影人は明確なる敵意を伝える言葉を呟く。どこまでもドライに自分の立ち位置を見つめながら。
「――俺はお前たち光導姫と守護者を潰す」
底冷えするような声音で、影人は特大の嘘をぶちまけた。




