第290話 勝者は(5)
「・・・・・・・・・・」
クラウンなる闇人の登場により、意外な結末となった戦いではあったが、とりあえず影人の仕事は終わった。影人はアイティレたちから背を向けて、この場を去ろうとした。だが、その影人の所作に気がついたアイティレが待ったの声を掛ける。
「待て、スプリガン。奴らは逃がしてしまったが、私は貴様まで逃がすつもりはない」
「・・・・・・・・この前の戦いの決着を着けようってか」
影人は自分の後方から声を掛けてきたアイティレに半身だけ振り返ってみせた。やはりと言うべきか、『提督』は自分を見逃してはくれないようだ。
「ああ、そうだな。それもいいだろう。光臨状態の私ならばお前とも互角以上に戦える」
「っ、ちょっと本気なのアイティレ?」
そのアイティレの強気な言葉に1番初めに反応を示したのは風音だった。ちなみに、風音を含む5人はアイティレから1メートル以上離れた後方にいる。これは風音がアイティレの『絶対凍域』を意識しての指示だった。光臨したアイティレの『絶対凍域』唯一の欠点は、通常の『凍域』とは違い、アイティレを攻撃しようとした者だけでなく、範囲内に入った全ての者を凍らせるというものだ。つまり、光臨したアイティレの1メートル以内は味方でさえも問答無用に凍らせる。
その事を知っていた風音はあらかじめ自分以外の4人にその事を伝えていた。だから風音を含む5人はアイティレから1メートル以上距離を取っているのだ。
「・・・・・・・やめとけよ、別に今の俺はお前と戦うつもりはない。それに、その光臨ってやつは時間制限つきなんだろ。残りの詳しいリミットまでは知らないが、時間はもう少ないはずだ。そんな状態で、お前が俺に勝てるはずがない」
淡々とピリついた雰囲気のアイティレに影人はそう言葉を返した。正直に言ってしまえば、影人ももうかなり闇の力は消費してしまったので、アイティレと戦うということになればかなり厳しくなる。
だが、影人はあくまで強気だった。人によっては挑発に聞こえるかもしれない言葉も混ぜながら、影人は正体不明目的不明の実力者を演じることを忘れない。
なぜならば、それがスプリガンだからだ。




