第289話 勝者は(4)
「・・・・・・・コホンッ! とにかく、私達はお前達を逃がしは――」
アイティレが結局微妙な感じになってしまった空気を正すべく、1つ咳払いをした。とにかく冥を逃がさないという意思表示を再度示そうとアイティレが、言葉を紡ごうとすると、クラウンが何気ない感じでこんな言葉を挟んできた。
「あ、もう冥さんは回収しましたので、ワタクシたちはこれで失礼します。では、また機会があればお会いしましょう」
「「「「「「「!?」」」」」」」
本当に気がつけば、いつの間にかクラウンが倒れていたはずの冥を脇に抱えていた。その事実に、クラウンと殺花を除いた全員がその目を驚きの色に染めた。すなわち、影人、アイティレ、風音、刀時、陽華、明夜、光司の7人だ。
(くそっ、いったいどういうことだよ!?)
その現象が起こった事に気がつかなかった影人は、すぐさまその目を冥が倒れていたはずのクレーターのようになっている地面の中心部へと向けた。
(何だあれ? ピエロ人形・・・・・・・・・?)
影人が目を凝らしてみると、先ほど冥がいたはずの位置には手のひらサイズのピエロ人形のようなものが転がっていた。
「パチンッ! と鳴らせばあら不思議。道化師たちはたちまち消え去ります! ですー」
「・・・・・・『提督』、それにスプリガンよ。この屈辱はいずれ晴らす・・・・・・!」
「くっ、待て!」
アイティレが銃を撃とうとするがもう遅かった。
クラウンのまるで手品をするかのような言葉と、殺花の捨て台詞が聞こえ、クラウンが指を鳴らしたかと思うと、2人とクラウンに抱えられた冥の姿は、まるで奇術のようにサッパリと消えてしまった。
放たれたアイティレの弾丸は、ただ虚空を進んでいっただけだった。
「クソッ! 逃がしたか・・・・・・・・・! 絶好のチャンスだったと言うのに・・・・・・!」
アイティレが思わずガンッ! と地面を踏みしめた。上手くいけば殺花と冥を浄化できたというのに、クラウンの登場で全ての歯車は狂ってしまった。
(俺が冥の意識を途切れさせたことで、くしくも逃げることが出来たってわけだな。皮肉かどうかは分からねえが、俺にとっちゃどうでもいい)
珍しく感情を露わにして悔しがる『提督』を見ながら、影人はそんなことを思った。光導姫・守護者サイドからしてみれば、最上位闇人を浄化できるチャンスというのは滅多にないことなのだろう。そのチャンスを2度も不意にされてはたまったものではないということか。
冥の意識を一時的に破壊し、無防備状態を作ったのは影人だが、冥の浄化云々は影人にとってはどうでもよかった。別に得物を横取りされるとかそんなことは影人はカケラも思ってもいない。影人はただ仕事で冥の意識を奪っただけだ。そして影人にとっての仕事は、陽華と明夜を、場合によってはその他の光導姫や守護者を影から助けること。ゆえに、闇人の浄化ははっきり言ってしまえば影人の仕事には関係がない。まあ、浄化できないよりかは浄化できる方がいいとは思うが。




